脱炭素社会実現のため化石燃料の価格を目指せ! コスモの合成燃料戦略:素材/化学インタビュー(1/3 ページ)
脱炭素の切り札とされる「合成燃料」と「バイオ燃料」の普及で障壁となっている「高い製造コスト」。コスモエネルギーホールディングスが開発を進めるCCU技術とバイオ燃料製造技術がこの壁を乗り越えようとしている。
日本政府や国内企業では、2050年までに温室効果ガスの排出量を全体として実質ゼロにする「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けてさまざまな取り組みを推進している。その中で、CO2を「排出しない」だけでなく「どう生かすか」という“資源化”にも関心が寄せられている。
経済産業省が示す「カーボンリサイクル技術ロードマップ」でも、CO2を原料とした燃料や化成品の早期商用化が国家戦略として位置付けられ、CO2の回収、活用、貯留の技術は社会全体でも求められている。
こういった状況や製油所におけるCO2排出量の多さなどの課題を踏まえて、コスモエネルギーグループは、製油所などで排出されるCO2を再資源化し、新たな燃料や素材として循環させるCO2回収利用(CCU)技術の社会実装に挑戦している。
同社では、静岡大学とともに「海水電解による“低コストグリーン水素”の製造技術」といったCCU技術の開発を進めている他、同大学発のベンチャー企業であるS-Bridgesとともに、低炭素で燃料を生産する手段として「食品加工残渣を利用した有価物/第2世代バイオエタノール製造技術」の開発も並行して行っている。また、CO2資源化研究所とともに「CO2を再資源化した“e-エタノール”の製造技術」の開発も進めている。
コスモエネルギーホールディングス 新エネルギー事業統括部 事業戦略グループ長の松岡宏樹氏と同グループ 担当グループ長の千代田範人氏に、各技術の開発背景や特徴、概要、今後の展開などについて聞いた。
問題はグリーン水素の価格
米国大統領のドナルド・トランプ氏が脱炭素への取り組みに消極的なこともあり、一部の国では近年、脱炭素政策を見直す動きがある。日本では現状、脱炭素政策の見直しがみられず、国際的なルールに従いCO2排出量削減や新エネルギーへのシフトを進める法整備が推進されている。
こういった状況を考慮し、コスモエネルギーグループでは、将来においてさまざまな国が再度脱炭素に向けて動く可能性も視野に入れ、CCU技術の開発を進めている。しかし、CCU技術の開発を推進する中で、石油製品をはじめとする化石燃料の優位性に気付くことも多いという。
松岡氏は「例えば、原油は精製工程などでCO2が排出される点に目を瞑(つむ)れば、最もエネルギーとして扱いやすいと考えている。なぜなら、原油を基にさまざまな石油製品を大量生産できたり、ガソリンや灯油など、常温常圧下で液体の化石燃料は運搬しやすかったりするだけでなく、専用の装置に格納すれば気化などせず、量も減らないためだ」と指摘する。
続けて、「蓄電池に目を向ければ、環境や状態にもよるが100%充電していても1年後に70〜80%に電力が減るケースもある。液化水素燃料も製造するに当たり、水素を−253℃で冷やし液化する必要があり、多くのエネルギーを要する。こういった短所を知ると、化石燃料の便利さと実用性に気付く。そのため、化石燃料からCO2排出量の問題を取り除(のぞ)ける合成燃料(e-fuel)の技術開発に注力している」と補足した。
e-fuelは、再生可能エネルギー由来の水素(グリーン水素)とCO2を合成して製造される人工的な液体燃料だ。同燃料は、ガソリンや灯油といった化石燃料と互換性があり、既存のインフラやエンジンをそのまま利用できる。e-fuelの製造で使用するCO2には、製油プラントで発生するものを回収して使えるため、同プラントの脱炭素化にも役立つ。
「当社は、e-fuelを運べるパイプラインも有しているため、ガソリンスタンドで販売することも可能だ。インフラもあるので今すぐにe-fuelを製造できるが、大きな問題がある。グリーン水素の価格だ。現行価格のグリーン水素とCO2を組み合わせてe-fuelを製造した場合、価格はガソリンより5倍以上高くなると想定されている」(松岡氏)
一般的にグリーン水素は、再生可能エネルギーと水電解装置を用いて、水を電気分解し、水素と酸素に分離して製造される。「(水電解装置で)水から1m3の水素を製造する際に、約4kWhの電力が必要だ。日本で1kWhの再生可能エネルギーの価格は約20円であるため、4kWhで約80円かかる」(松岡氏)。
こういった問題の解決策としては、政府の補助金や価格転嫁、e-fuelの代替としてバイオ燃料の活用、製造設備などの電化が挙げられるが、課題も多いという。
松岡氏は「政府から提供される補助金を使い終わった場合、(自社の資金で)自走しなければならない。価格転嫁を行うと、高価になるため普及しにくい。バイオ燃料に関して、日本は原料となるトウモロコシやサトウキビの多くを輸入に依存しており、量の確保が難しい。バイオ燃料の生産に向けて、これらの原料を求める声がさまざまな国で上がっており、それに合わせて価格も高くなっている。製造設備の電化について、鉄鋼材料を生産する装置などでは大きな熱量を生じる必要があるため、電化では高コストになる。加えて、リチウムイオン蓄電池などの電極には、リチウムなどのレアメタルが使用されているが、レアメタルは地殻中に少ないだけでなく、さまざまな国の輸出規制の影響で確保が難しくなってきている」と警鐘を鳴らす。
同氏はさまざまな課題について考えている中で、e-fuelをはじめとする次世代エネルギーの大きな問題が、有している付加価値が化石燃料と変わらないことだと気付いたという。「つまり、安価で使いやすい化石燃料があるのに、それよりもコストとエネルギーを掛けて製造した高いe-fuelを顧客は買いにくいということだ」(松岡氏)。
そこで、コスモエネルギーグループではe-fuelの付加価値向上に向けて、「海水電解による“低コストグリーン水素”の製造技術」をはじめとするさまざまな技術の研究開発を進めている。
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