EVシフト減速の中、なぜフォルクスワーゲングループは堅調なのか:和田憲一郎の電動化新時代!(59)(3/3 ページ)
EVシフトの減速が叫ばれる中で、VWグループがBEVおよびPHEVの販売を大きく伸ばしている。そこには日系自動車メーカーとは異なる長期戦略が隠されているのではないか。VWグループの経営戦略に焦点を当てながらその狙いを考察する。
日本企業が参考にできる点は何か
世界第2位の販売台数を誇るVWグループが、電動化への移行に対して積極的な姿勢を示している点は興味深い。また、VWグループは米国市場における販売比率が比較的低いことから、第2次トランプ政権による自動車関税の影響は、日本の自動車メーカーと比較して限定的である。では、日本の自動車産業は、このようなVWグループの長期戦略に対して、何を参考とすべきであろうか。筆者は、以下の3点に着目すべきと考える。
1.SDVのソフトウェア領域が主戦場
新型車両に対しては、スタイリングやスペックはどうなのかと考えがちであるが、主戦場がSDVのソフトウェア領域に移っていることは再認識すべきであろう。日本では「モノづくり」への志向が根強く残っているが、今後の自動車開発においては、ソフトウェアの重要性が飛躍的に高まることは疑いない。実際、中国市場では生成AI(人工知能)を搭載し、利活用した車両も出現している。日本企業においても、車載向けソフトウェアの多様化/高度化に対応するための戦略的な取り組みが急務であろう。
2.プラットフォーム構造と部品点数の最適化
VWグループが提唱する次世代プラットフォーム「SSP」においては、バッテリー構造をボディーと一体化する設計思想が採用される予定である。この構造は、既にBYDが「SEAL」などのBEVにて実装している「Cell to Body(CTB)」コンセプトと同様のアプローチである。バッテリーパックを車体構造の一部として機能させることで、部品点数の削減と車内スペースの最適化を実現している。BEVの第2世代/第3世代においては、専用プラットフォームの採用により、ギガプレス、e-Axle、次世代サーマルマネジメントなどの革新的技術との統合が可能となる。日本の自動車産業においても、従来の設計思想にとらわれず最適構造を追求することで、新たなビジネス機会の創出につなげられるのではないか。
3.BEV/PHEVの価格競争への対応
これまで、BEVおよびPHEVは、ICEやHEV(ハイブリッド車)と比較して高価格帯に位置付けられてきた。しかし、VWは2万5000ユーロ未満のID.Poloや、約2万ユーロのエントリーレベルBEVの市場投入を計画しており、価格破壊を目指す戦略のようである。また、BYDは日本市場においても価格競争力を有する軽EVを2026年後半に発売する予定であり、グローバル市場でも価格破壊戦略が進行中である。日本国内では電力料金や原材料費の高騰が続いているが、中国など一部地域では景気低迷や若年層の高失業率が報道され、経済状況には地域格差が存在する。このように世界的な景気の濃淡を踏まえ、国際的な連携を強化することで、ビジネスチャンスも生まれてくるのではないだろうか。
筆者紹介
和田憲一郎(わだ けんいちろう)
三菱自動車に入社後、2005年に新世代電気自動車の開発担当者に任命され「i-MiEV」の開発に着手。開発プロジェクトが正式発足と同時に、MiEV商品開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーに就任。2010年から本社にてEV充電インフラビジネスをけん引。2013年3月に同社を退社して、同年4月に車両の電動化に特化したエレクトリフィケーション コンサルティングを設立。2015年6月には、株式会社日本電動化研究所への法人化を果たしている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ≫連載「和田憲一郎の電動化新時代!」バックナンバー
BYDが日本市場に軽EVを投入する意図を考察する
BYDが日本専用設計の乗用軽EVを国内導入することを決定した。この決定は、合理性に乏しく、割に合わないように感じられる。にもかかわらずBYDは、なぜ日本市場に軽EVを投入するのだろうか。その意図を考察する。
EV向けワイヤレス給電の現在地と普及に向けた課題
2011年の東京モーターショーで多くの自動車メーカーが取り組みを発表したEV向けワイヤレス給電。それから約15年が経過したが、ニュースで取り上げられることはあっても実用化は進んでいない。このEV向けワイヤレス給電の現在地と普及に向けた課題について2人の専門家に聞いた。
米国非関税障壁に関する指摘とBYD超急速充電システムへのCHAdeMO規格の見解は
中国を除いてEVシフトの伸びが鈍化し、米国の第2次トランプ政権が日本の非課税障壁について圧力を高める中、日本発の急速充電規格である「CHAdeMO」の標準化を進めるCHAdeMO協議会は、今後どのような方針で活動を進めていくのであろうか。
日本の自動車産業が直面する深刻な閉塞感、今後に向けてどう考えていくべきか
日本の自動車産業は現在、深刻な閉塞感に直面しているのではないだろうか。最大の課題はEVシフトで遅れていることだが、他にもさまざまな懸案がある。今後どのようなことを考えていくべきかについて筆者の考えを述べてみたい。
中国で急成長するEREVはグローバル自動車市場の“本命”になり得るか
EVシフトが著しい中国で急激に販売を伸ばしているのがレンジエクステンダーを搭載するEREV(Extended Range Electric Vehicle)である。なぜ今、BEVが普及する中国の自動車市場でEREVが急成長しているのだろうか。さらには、中国のみならず、グローバル自動車市場の“本命”になり得るのだろうか。