日立は世界トップのフィジカルAIの使い手へ、「HMAX」は2030年度までに2万件受注:人工知能ニュース(1/2 ページ)
日立製作所はフィジカルAIを中心とした同社のAI戦略アップデートの方向性について説明。フィジカルAIの適用を自社内で先行的に進めることで「世界トップのフィジカルAIの使い手」を目指す。
日立製作所(以下、日立)は2025年10月10日、東京都内で会見を開き、現実世界の製品の制御にAI(人工知能)モデルを適用するフィジカルAIを中心とした同社のAI戦略アップデートの方向性について説明した。フィジカルAIの適用を自社内で先行的に進めることで「世界トップのフィジカルAIの使い手」を目指すとともに、AIエージェントとフィジカルAIのソリューション「HMAX」の潜在案件パイプライン数を足元の受注数50件から2030年度までに2万件に拡大したい考えだ。
日立 執行役常務 AI&ソフトウェアサービスビジネスユニット CEOの細矢良智氏は「社会インフラと関わるミッションクリティカル分野では高い可用性と信頼性、耐障害性が求められ、ITとOT(制御技術)、それらの業務運用知識といったドメインナレッジが重要になる。日立の最大の強みは、要求の厳しい社会インフラをITとOTの両面で支えてきた長年の経験値と深いドメインナレッジにある。そして、フィジカルAIの時代が始まった今だからこそ日立にしかできないことがあると考えている」と語る。
現在、AIの業務活用で注目を集めているのがAIエージェントだ。生成AIにRAG(検索拡張生成)などによって業務データを取り込んで、業務フローの自動化などに向けて既に導入が始まっており、2025年からは複数のAIエージェントを組み合わせたマルチエージェントシステムに進化しつつある。その市場規模は2030年には471億米ドル(約7兆1700億円)まで拡大すると予測されている。
このAIエージェントよりもさらに大きな市場になることが期待されているのがフィジカルAIだ。これまでも現実世界の製品には、従来の深層学習技術をベースにした認識AI(Perception AI)が適用されてきたが、仮想環境におけるシミュレーションによって制御の最適解を導き出すフィジカルAIは人型ロボットや高度な自動運転技術の実現に必須といわれている。もちろんさまざまな製品にも適用可能であり、それによってもたらされる自動化などの効果は極めて大きくなる。フィジカルAIに用いられるハードウェアとソフトウェアを合計した市場規模は、2030年には2023年比で10倍となる1247億米ドル(約18兆9800億円)まで伸びる見込みだ。
日立は2025〜2027年度の中期経営計画「Inspire 2027」において、ITとOT、製造業として展開するプロダクトに加えて、1960年から研究開発に取り組んできたAIや2016年から展開してきたデジタルソリューション群「Lumada」を融合した「Lumada3.0」を中核に据えている。そしてLumada3.0は、フィジカルAIとAIエージェントにドメインナレッジを掛け合わせたものと定義されている。
Lumada3.0を体現するソリューションとなるのが「HMAX」だ。現時点では、日立のモビリティセクターが鉄道事業者向けにエネルギー消費や運行スケジュール、保守コストの最適化するソリューションとして展開されているが、今後はエナジーセクターやコネクティブインダストリーズ(CI)セクターでもHMAXの展開が予定されている。
細矢氏は「デジタルシステム&サービス(DSS)セクターが中心になって、モビリティ、エナジー、CIの3セクターにおける幅広いフィールドで日立が自社のAI活用にまず徹底的に取り組んでいきたい。日立ではこれを『カスタマーゼロ』と呼んでおり、この変革の実績を基にお客さまやパートナーと一緒になってAIのエコシステムを拡大し社会に貢献していく。日立は世界トップのフィジカルAIの使い手を目指したい」と強調する。
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