バイオディーゼルは「今すぐできるCO2削減」、普及には連携が不可欠:脱炭素(1/3 ページ)
航空業界では各国の規制導入や支援もあって従来のジェット燃料の代替となるSAF(持続可能な航空燃料)の使用が始まっている。自動車業界でも広げていくには、バイオ燃料の製造や輸送、そして自動車メーカーやユーザーの連携が欠かせない。
廃食油などから生まれるバイオ燃料。内燃機関を使ったまま、化石燃料よりもCO2排出量を削減できる点が注目されている。液体燃料は、バッテリーや水素と比べてエネルギー密度が高いという強みもある。
日本自動車工業会は2025年9月にEU向けに発表したポジションペーパーの中で、再生可能燃料のCO2削減効果を考慮することなどを呼びかけた。EUは運輸部門のCO2排出規制のため、2035年に内燃機関車の販売を禁止することを決定している。「EV(電気自動車)の普及に関してはさまざまな要因から不確実性が露見しており、内燃機関の販売を禁止することによる気候目標の達成は困難」(ポジションペーパーより)と訴え、特定の技術にとらわれない多様なアプローチでカーボンニュートラル達成に向けた柔軟性を持つことを求めた。
航空業界では各国の規制導入や支援もあってSAF(持続可能な航空燃料)の使用が始まっている。自動車業界でも広げていくには、バイオ燃料の製造や輸送、そして自動車メーカーやユーザーの連携が欠かせない。
マツダが2025年8月に開いた次世代バイオディーゼル体験会ではそれぞれの立場の企業がバイオディーゼル普及に向けた期待を語った。自動車メーカーからマツダといすゞ自動車、燃料メーカーからはユーグレナ、燃料の輸送や供給網の立場で平野石油、バイオディーゼル車のユーザーとして、社用車を導入した三井住友ファイナンシャルグループが参加した。
バイオディーゼルとは?
バイオディーゼルは、大きく2種類に分けられる。1つはFAME(Fatty Acid Methyl Esters、B5やB100など)だ。メタノールと反応させるメチルエステル化処理によって軽油と近しい性質を作り出す。バイオディーゼルとしては低コストに製造できるが、酸化しやすいため長期保管はできない。
もう1つはHVO(Hydrotreated Vegetable Oil、サステオなど)で、水素と反応させる水素化処理を植物油などに施すことで、石油に近い分子に作り替える。製造工程で酸素を除去するため長期保管が可能だが、FAMEよりも製造コストが高い。HVOは、合成燃料のe-ディーゼルと合わせてリニューアブルディーゼルとも呼ばれる。
FAMEやガソリンに混合するバイオエタノールは材料腐食性があるが、HVOは腐食性がないため既存のエンジンでそのまま使いやすい。
資源エネルギー庁の目線
次世代バイオディーゼル体験会では、資源エネルギー庁 資源・燃料部 燃料供給基盤整備課の東哲也氏が次世代燃料の商用化に向けたロードマップを説明した。まずはバイオエタノール混合ガソリン(低炭素ガソリン)やバイオディーゼルを展開し、合成燃料の導入やバイオ燃料の拡大によってさらに脱炭素化を推進する。
日本の基本戦略はEVやFCV(燃料電池車)、HEV(ハイブリッド車)など多様な選択肢でカーボンニュートラルを実現していくことだ。また、バイオ燃料や合成燃料など持続可能な燃料と、日本の自動車産業の強みである電動パワートレインの組み合わせを普及させる取り組みは国際的にも発信していく考えだ。
液体燃料はエネルギー密度が高いという特徴がある。可搬性や貯蔵性にも優れており、長期備蓄もしやすい。大規模停電など緊急時に必要な場所に必要な量を運ぶことができる。また、大型車やジェット機を電動化/水素化するには液体燃料よりも大きな容量の電池や水素エネルギーが必要になるため、運輸部門のGHG排出削減には、液体燃料の脱炭素化が重要になる。
EVやFCVのようなゼロエミッション車やエンジン搭載車の燃費向上によってガソリンの需要は減少するが、一定の需要は残ると見込む。まずはバイオ燃料を増やし、次に合成燃料の普及によって段階的に脱炭素化を進めていく。
バイオエタノールを使った低炭素ガソリンは2028年度から先行導入し、混合するバイオエタノールの濃度が最大10%の低炭素ガソリンを2030年度までに供給することを目指す。また、「E20(=混合するバイオエタノールの濃度が最大20%となる低炭素ガソリン)」の認証制度の議論を速やかに開始し、2030年代の早期に乗用車の新車販売におけるE20対応車の比率を100%にする目標だ。2040年度からは対応車両の普及やサプライチェーンの状況を見極めながら、E20の供給を開始する。
バイオディーゼルも活用が期待されるバイオ燃料の1つだ。SAFの連産品としてのバイオディーゼル(HVO)の生産と供給が有力視されている。SAFは国内でも生産拠点が建設されており、航空業界の環境規制が早い段階から周知されていることもあって取り組みが確実に進むと見込まれている。バイオディーゼルの導入に向けては、公道とオフロードの法令整備やメーカー保証、軽油引取税の定義や課税の在り方の検討などが課題となる。
合成燃料の商用化に向けたロードマップは2023年6月に策定、公表されている。2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、2025年には製造を開始し、2030年代前半までの商用化を目指すとされている。さらなる加速も視野に、努力の継続が不可欠だとしている。
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