最新鋭クルーズ客船「飛鳥III」で知るイマドキの操舵室:イマドキのフナデジ!(6)(3/3 ページ)
「船」や「港湾施設」を主役として、それらに採用されているデジタル技術にも焦点を当てて展開する本連載。第6回は、最新鋭クルーズ客船「飛鳥III」の「統合ブリッジシステム(IBS:Integrated Bridge System)」を紹介する。
IAMCSコンソールの重要性
飛鳥IIIのブリッジ前列右舷側のコンソール群の最も左寄り(ブリッジ中央部に最も近い)には、「IAMCS」用MFDを配置する。IAMCSは「Integrated Alarm, Monitoring & Control System」として、主機や発電機、配電系統、スラスター、空調(HVAC)、さらに非常停止(ESD)や情報管理(IMS)までを統合的に監視制御できる。飛鳥IIIのIAMCSコンソールは、これらのシステムの稼働状態や負荷分布、異常発生の有無をリアルタイムで表示し、必要に応じて航海士が直接操作できる設計となっている。
このコンソールが提供する情報には、発電機の出力や負荷バランス、電源切替状況といった電力管理情報、主機回転数や補機稼働状態といった船内プラントの運転状況、空調や冷却系統の稼働度合いを示すHVAC関連データを含む。また、異常や限界値を検知した場合には警報を即時に表示し、対応手順とともに操船チームと共有できるため、運航中のトラブルに対して迅速かつ的確な対応が可能となる。
IAMCS専用コンソールは、ブリッジ全体の「エネルギーと機関管理の中枢」として機能する。機関制御が機関室だけに閉じず、航海情報や安全情報と同様にブリッジで扱われる点が大きな特徴だ。これは「運航の意思決定をブリッジに集約する」というIBSの統合思想を体現したものともいえるだろう。
右舷前列の操船支援装置
飛鳥IIIのブリッジ右舷前列には、IAMCS専用コンソールに加えて、航海計測や操船支援に関わる機器を集中的に配置している。ECHO SOUNDER(音響測深機)は、浅海域や港内操船において船底下の水深を即座に把握する役割を担う。また、航海灯やデッキライトといった船外照明を統括する操作卓も設けており、視界や周囲状況に応じて迅速に切り替え可能となっている。
SPEED LOG(対水速度計)、オートパイロット操作卓、風向風速計、気象/海象監視盤も並び、航海士は船体運動と周辺環境を同時に把握できる。SPEED LOGは速力管理と航海計画に直結し、オートパイロットは針路保持や長時間航行時の操舵負担を軽減する。風向風速計や気象海象監視盤は、荒天航海や入出港操船に不可欠な情報を提供する。
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