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にわかに盛り上がってきた「ロケット発射&回収船」って何?イマドキのフナデジ!(5)(1/4 ページ)

「船」や「港湾施設」を主役として、それらに採用されているデジタル技術にも焦点を当てて展開する本連載。第5回は、日本郵船と商船三井が相次いで記者説明会を開いた「ロケット発射&回収船」と、その実現に求められる技術的条件に迫る。

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 2025年7月に日本郵船と商船三井が「ロケットを打ち上げてさらにそれを着船させる船」の開発事業に関する記者説明会を“相次いで”開いた。今回はこの「ロケット発射&回収船」に求められる技術的条件を紹介する。

⇒連載「イマドキのフナデジ!」のバックナンバーはこちら

始まりは「(もったいないので)船でロケットを回収したい」

 宇宙開発のコスト低減を目指し、JAXA(宇宙航空研究開発機構)は2030年の初号機打ち上げを視野に「再使用ロケット」の開発を進めている。これに不可欠なのが、第1段ロケットを海上で回収する「ロケット回収船」だ。

 文部科学省のロードマップでは、2030年ごろの初号機打上げを目標に、H3ロケット比で約2分の1のコスト低減を実現する再使用ロケットを国家インフラとして確立し、国際競争力と産業自立性を高めることを目指している。JAXAは民間事業者との官民共同研究を通じて要素技術を獲得し、飛行試験場の整備や機体の回収整備方法、法的課題への対応を並行して進める方針だ。

 こうした再使用ロケット実現のための手段の一つとして、第1段ロケットを洋上で安全かつ確実に回収し、整備拠点へと運搬できるロケット回収船の開発をJAXAでは進めている。

JAXAが構想するロケット回収船の洋上回収プロセス
JAXAが構想するロケット回収船の洋上回収プロセス[クリックで拡大] 出所:日本郵船

 洋上回収の運用プロセスは、JAXAが構想する再使用ロケットの全体計画でも中核を成している。まず、国内の打ち上げ拠点から発射されたロケットは、第2段との分離後、第1段が姿勢を反転させ、慣性飛行を経て減速し、あらかじめ指定された回収船のプラットフォームに垂直に着船する。

 着船後、ロケットは船上に設置された固定装置によって機体を安定させた後、残留する推薬や酸化剤などを抜き取る「安全化」処置が行われる。これらの作業は、爆発や火災といったリスクを避けるため、無人化された回収船で遠隔操作によって行う。作業中、回収船の乗員は近くを航行するサポート船(=回収船リモート操作船)に待避しており、安全が確認された段階で回収船へ移乗し、ロケットの状態確認や搬送準備といった有人作業を実施する。

 整備可能な状態と判断された後、回収船はロケットを搭載したまま陸上の整備場に隣接する岸壁まで航行したのち陸揚げする。その後、地上で点検と整備を実施し、再使用可能な状態に復元されたロケットは再び打ち上げ地点へと輸送され、次の打ち上げに備える。これら一連のプロセスを繰り返すことで、再使用ロケットという新たな宇宙輸送モデルの確立をJAXAは目指している。

フロリダより“荒い”南の海

 現在、回収海域の候補として有力視されているのが種子島宇宙センター周辺1000km以内の海域だ。同センターには既存の設備が整っており、それを活用することでインフラ再整備にかかるコストを抑える効果が期待できる。

JAXAが想定するロケット回収海域
JAXAが想定するロケット回収海域 出所:JAXA

 静止衛星や探査衛星を打ち上げる場合、日本の東〜南東〜南海域が回収ポイントとして想定されており、周回衛星ミッションでは南西方向の海域が選定候補となる。また、ロケット回収時の爆発や火災リスクを踏まえ、作業の無人化が必須なことから、回収作業は2隻体制で実施するとしている。

 具体的には、ロケットの回収から固定、輸送する役割の「回収船」と、遠隔操作や人員の退避、ロケット追跡を担う「サポート船」による分業運用だ。これにより、安全性と効率性を両立させた回収体制の構築を目指している。

 ただし、日本での運用には海域特有の課題がある。まず、再使用ロケットの運用で先行する米国のSpaceXが使用するフロリダ沖に比べ、日本周辺海域は季節風や海流の影響により風浪が厳しく、回収船には高い耐航性が求められる。こうした条件下での洋上回収を成立させるためには、うねりによる船体の揺れを抑える対策が不可欠だ。

 具体的には、波浪に対する安定性を確保できる大型船型の採用や、減揺装置(アンチローリングタンク、フィンスタビライザーなど)の搭載といった技術的工夫が必要となる。回収デッキの広さの確保と平たん性の維持に加え、プラットフォーム上への着船精度にも影響するため、これらの対策はロケット回収成功率を左右する重要な要素となる。

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