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地政学要因で半導体製造は東南アジアとインドへ、東アジア一極集中の脱却なるかポスト政策主導時代を迎える半導体市場(3)(1/3 ページ)

半導体に関する各国の政策や技術開発の動向、そしてそれぞれに絡み合う用途市場の動きを分析しながら、「ポスト政策主導時代」の半導体業界の姿を提示する本連載。第3回は、転換点にある米欧の半導体政策に呼応する形で新たな産業政策を進める東南アジアの主要工業国やインドの政策動向を紹介する。

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 本連載では第1回第2回で、米国と欧州それぞれの半導体政策が転換点にあることを述べた。

 今回は、米欧の政策主導による半導体サプライチェーンの変化を自国の産業育成の好機と捉え、これらに呼応する形で産業政策を進める東南アジアの主要工業国やインドの政策動向を紹介する。

⇒連載「ポスト政策主導時代を迎える半導体市場」バックナンバー

1.米中対立を背景とした半導体製造:東アジア一極集中緩和の潮流

米中対立を発端とした台中への一極集中リスクの回避

 コロナ禍以降、半導体サプライチェーンが地政学的な駆け引きの「武器」となる中、米国は中国への安全保障上の重要技術の流出を防ぐとともに、経済安全保障の観点からも自国内および友好国/地域内で半導体サプライチェーンを完結させるべく、大規模な政策資金を投入してきた。

 翻って、半導体サプライチェーンの現状に目を向けると、製造の前工程、特に先端製品については台湾がほぼ独占しており、後工程についても台湾と中国が大きなシェアを持つ状況にある(図1)。米国による半導体政策の核心の一つは、こうした東アジアへの製造工程の集中に対するリスク回避にある。東アジア一極集中へのリスク回避には、中国をサプライチェーン上から外すことを前提としつつ、それと同時にいわゆる台湾有事に対する備えとして、製造拠点を台湾から他の友好国に分散させるということも暗に含まれている。

図1
図1 半導体サプライチェーンの国/地域別のシェアと順位。IC Insights“Worldwide IC Company Marketshare by headquarters Location 2021”と主要半導体製造装置各社の開示資料よりPwCコンサルティングまとめ[クリックで拡大] 出所:PwCコンサルティング資料を基に編集部作成

後工程取り込みの好機

 米国が企図する半導体サプライチェーンの再構築とは、高度な先端技術を必要とする前工程は米国内への製造拠点誘致を進め、成熟技術によるコスト重視の後工程については、中国を排除して友好国/地域内でサプライチェーンを完結させるというものである。こうした米国の戦略に呼応する形で、東南アジアの主要国やインドは国を挙げて半導体産業を誘致する政策を掲げている。一部の国では、前工程をも視野に入れた産業政策が示されているものの、目先の狙いは後工程需要の取り込みだ。

 後工程は基本的に、(1)前工程で製造されたウエハーの裏面を研削して薄化するバックグラインド、(2)薄化したウエハーを切り分けるダイシングから配線のボンディング、(3)基板への実装を経て封止材でモールディングし、製品化したものを検査装置でテストするまでという3つの工程から構成される。マレーシアやインドネシアを中心とした東南アジアでは、車載向け製品などで既に後工程Fab(Fabrication Facility:製造工場)が操業開始してから久しい。これに対してインドはモディ政権の下で、新たに後工程に本格参入を果たした。

 一方で半導体製造技術は、これまでの微細化※1)一辺倒から3D化※2)という新たな技術競争軸が浮上している。従来は先端技術というと前工程を指すことが多かったが、3D化によって、後工程も開発競争の主戦場となりつつある。こうした技術的な変化を背景として、東南アジアやインドにおいても一部の事業者は先端パッケージング技術も射程に含めている。

※1)半導体素子をより小型化することで、チップ当たりの実装密度を高める技術。

※2)複数のチップを組み合わせたSoC(System on Chip)を平面ではなく、縦方向に積み上げることで省電力化や実装密度を高める技術。

 次ページからは、東南アジアの主要国およびインドの半導体産業政策を見ていこう。

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