生産性2倍以上、PLM活用で工程全てを革新に導いた金型メーカーの挑戦:ものづくり太郎のPLM講座(4)(2/4 ページ)
「すり合わせ」や「現場力」が強いとされる日本の製造業だが、設計と製造、調達などが分断されており、人手による多大なすり合わせ作業が大量に発生している。本連載では、ものづくりYouTuberで製造業に深い知見を持つブーステック 永井夏男(ものづくり太郎)氏が、この分断を解決するPLMの必要性や導入方法について紹介する。第4回は、金型製作におけるPLM活用の価値について紹介する。
1.5GPaの超ハイテン材の加工を行える協和工業の技術力
ここまで見てきたように、日本の自動車産業やモノづくり産業を支える金型だが、最新の取り組みを紹介したい。今回事例として取り上げるのは、静岡県湖西市にある協和工業である。協和工業はプレス金型の製造とプレス加工の両方を担い、自動車サプライヤーに供給している。1.5GPaの超ハイテン材の加工を行える技術を持つことが強みだ。
協和工業は、特定の系列に所属せず独自性を貫く。隣にはスズキの湖西工場が広がるが、過去は日産系がメインの顧客であり、最近のメインの顧客はトヨタ紡織グループが多いとのことだ。先述したようにトヨタ自動車もハイテン材や超ハイテン材の活用を進めている。トヨタ紡織グループは多くの部品をトヨタ自動車にも供給しており、必然的にトヨタ紡織グループに部品を供給している協和工業にも技術の高いプレス金型やプレス加工が要求される。
一般的な金型製作工程と課題
協和工業の金型製作工程は、多くの金型メーカーが金型を製造する方法と大きく異なっている。多くの金型メーカーは通常、以下のような段取りで進めている。
- 依頼先から送付された仕様(2次元図面や3D CADデータ)を基にして、CAEなどで検証し加工後の形状を加味し、金型の3D CADモデルを起こす
- 3D CADモデルが完成したら、上長や依頼先を交えてDRを行い、モデルの磨き込みをして問題が無ければ出図する
- 当該3D CADモデルや、3D CADモデルから作成された2次元図面を基に、金型部品の加工指示や購買の手配を行う
- 製造現場は、3D CADデータや2次元図面を確認しながらCAMを構築して金型部品を切削によって製造していく
- 切削され精度が担保できた部品と、調達で購入した部品を組み合わせて複雑な金型を組み立てる
- 組み立てられた金型をプレス機に搭載し、鋼板の加工を行う。抜き取り検査などを行った後、部品を出荷する
多くの金型メーカーでは、これらのプロセスで金型を製造していくが、寸法公差や幾何(きか)公差は2次元図面上で指定されているため、都度2次元図面を見ながら金型部品の精度を作り込んでいく必要がある。
各寸法や部品の指示は金型設計者にゆだねられているため、設計担当者ごとに微妙に指定する精度が異なったり、部品の仕様が異なったりする。製造(切削)担当者は、図面情報を逸脱した製造はできないため、切削を行う際に図面を何度も確認しなければならない。構成部品は自社だけで製造(調達)できるわけではないため、調達部門からサプライヤーに加工の依頼を行う。もちろんサプライヤーも指示された図面を確認しながら部品を作成する。
本連載を読んでいただいている読者であれば、既に想像できることだろう。このような作業には膨大な付帯作業が発生する。発生する工数は以下のようなものだ。
- 3D CADモデルから2次元図面に転写する工数が発生する
- 3D CADモデルから2次元図面に転写した際、寸法指定や公差の指示漏れが発生しがちだ。その場合、組み立て時に気が付くため手戻りや追加工の手間が発生する
- 調達でも同様の負荷が生まれる。2次元図面で寸法指定や、公差の指示が漏れている場合は、部品受け入れの検収の際では気が付かず、組み付け作業や金型納品時に気が付くことになり、部品を特急で手配することになる。特急部品は高くなり原価を圧迫する
- 担当者ごとに独自ルールがある場合は、加工作業が標準化されておらず、不必要な加工がなされることもある(QCを満たすために不要な加工である場合もあるだろう)
- 3次元測定器を用いた精度の確認も、3D CADモデルにPMIを持たせれば、測定パスを滞りなく構築できるが、2次元では図面を見ながら測定パスを都度構築する必要がある
従来の金型に関するモノづくりプロセスは、統一されたデータがないことでこれらの課題が常に発生している状態にあった。
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