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生産性2倍以上、PLM活用で工程全てを革新に導いた金型メーカーの挑戦ものづくり太郎のPLM講座(4)(1/4 ページ)

「すり合わせ」や「現場力」が強いとされる日本の製造業だが、設計と製造、調達などが分断されており、人手による多大なすり合わせ作業が大量に発生している。本連載では、ものづくりYouTuberで製造業に深い知見を持つブーステック 永井夏男(ものづくり太郎)氏が、この分断を解決するPLMの必要性や導入方法について紹介する。第4回は、金型製作におけるPLM活用の価値について紹介する。

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 本連載では、PLMがなぜ重要で、どのような成果を生み出しているかという点について解説しているが、第4回となる今回は、日本のお家芸とも言われた「金型のPLM運用」について、協和工業の事例を中心に紹介する。

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量産を安価で効率的に実現する金型

 筆者は商品認証企業を退職した後に、金型部品やFA部品を手掛ける専門商社であるミスミに入社した。ミスミでの最初の業務は金型部品の営業だった。ミスミが発刊している青色のプレス金型の本を持ち愛知から関西の顧客企業を奔走していたのが、今では懐かしく思える。

 本記事を読んでいただいている方は、おそらく製造業従事者で、今さら金型の説明をするまでもないと思うが、念のため「金型とは何か」から説明させていただく。

 金型は国力を表すといわれている工業品で、文字通り金属で構成された型を使い、高い精度で形状を転写し、さまざまな製品を効率よく生み出していくためのものだ。金型の精度は製品の精度よりも高い要求がされるため、金型の品質が製品の品質を決めるともいえる。例えば、今皆さんが使っているノートPCの筐体、キーボード、コネクター類など、多くの製品が金型から生み出されている。金型を見れば工業レベルが分かるといわれるわけだ。

 金型を使った成形方式には、射出成形、プレス、ダイカストなどさまざまな方式があり、使われる金型の種類も異なるが、今回はプレス加工に使う「プレス金型」を取り上げる。プレス加工は、金属製のプレス金型をプレス機に搭載し、上型と下型の間に鋼板(ブランク)を通し、数十〜数千トンの大きな力で上型を下型に押さえつけることで、間にある鋼板の形を変化させる塑性(そせい)加工である。

 単にプレス加工といっても鋼板を切断、曲げ、絞るなどの加工が可能であり、例えば自動車の筐体の多くの部品がプレス加工によって生み出されている。自動車の形はそれぞれ違うが、金型によってさまざまな形に成形できることが特徴だ。

photophoto プレス加工のロール材と製品の例[クリックで拡大] 出所:協和工業のWebサイト(https://kyowaindustry.co.jp/

金型の構成

 プレス金型は多くのプレートから構成される。トップホルダープレート、スペーサープレート、バッキングプレート、パンチプレート、外形ダイプレートなどを重ね合わせていく。それぞれ金属で構成されているため、工作機械によって切削の精度を出しながら1つの金型を構成していく。

 もちろん、それぞれのプレートの精度が確保できなければ、最終的な金型の精度が出ないため、精度のすり合わせは非常に重要になってくる。プレートの精度だけではなく、プレートを重ね合わせるためのノックピンを押し込む穴精度や、ガイドポストやパンチやダイなどの部品を組み込むためのはめ合い精度なども考慮しながら構成する必要がある。

 金型の製造は、切削するのみだけではなく、切削するまでにさまざまな工程がある。イメージを捉えてもらうため、自動車部品を例にとって説明を行う。

 自動車メーカー(OEM)や自動車のTier1サプライヤーは、多くの金型メーカーと取引があるが、年々部品の要求が高度化している。部品ごとに依頼する先はほぼ決まっている。依頼を受ける金型メーカーも仕事を受けながら、該当部品のノウハウを蓄積していく。

 依頼元はCADによるデザインを基に、金型メーカーとすり合わせを行い、部品形状を決めていく。金型メーカーもしくは、金型と部品の製造までを行うメーカーはDR(デザインレビュー)の後に出図された図面を基に、金型部品の製造と、金型の構成部品の手配を進める。

金型PLMに関連する最近の自動車部品のトレンド

 金型のPLMの運用の話をする前に、自動車の構成部品のトレンドについても要点を紹介しておく。自動車部品のトレンドの概略が分かると、PLM運用のメリットも理解しやすくなるだろう。

 最近の自動車は、一層の軽量化が求められており、プレスを行う鋼板も変化している。従来の単なる鋼板から、最近は高張力(引っ張り強度が高い)化し、薄くすることで軽量化できる鋼板に移ってきている。ハイテン材(高張力鋼板)といわれているものだ。

 トヨタ自動車の第4世代以降のプリウスを構成する鋼板は、実に50%以上がハイテン材を採用している。さらに第5世代プリウスでは30%は超ハイテン材(引っ張り強度980MPa以上の鋼板)が採用されたといわれている。超ハイテン材は文字通り、ハイテン材からさらに高張力化され、軽量化を可能としたものだ。

ものづくり太郎のここがポイント!

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 超ハイテン材は日本の鋼板技術の賜物(たまもの)だ。海外でも鋼板を製造はしているが、成形性が劣るため、超ハイテン材の鋼板を日本から海外へ輸出しているケースも多い。1180MPaの冷間成形用材の製造をリードしているのは、日本とドイツなのだ。

 テスラがギガキャストを採用して以来、多くの部品を1個の部品にまとめることができ、1回の製造で行えるため、自動車の製造方法が効率的になったといわれる。しかし、ギガキャスト部品は1度ぶつければ直すことが難しく、衝突時のエネルギー吸収と修理の課題があると見られている。自動車のフロントの構成部材はプレス部品を溶接するモジュール構造に回帰する動きもあり、日本の鋼材技術があらためて注目されている。

 このようなハイテン材、超ハイテン材は、自動車の高性能化を支える重要な素材だが、高張力であるため、加工が難しくなる。超ハイテン材ともなると、引っ張り強度が強く形状をプレス加工することも容易ではない。スプリングバック現象(プレス成形した後に、鋼板が元の形に戻るように変化する)など加工後の形状も考慮に入れながら、プレスする金型の順番や形状を構成していかなければならない。

 ハイテン材を加工する金型には、高剛性が求められるため金型の板厚を厚くしたり、一部の材料ではSKD材(ダイス鋼)ではなくハイス材や超硬材を活用したりしなければならない。つまり、加工コストも上昇する。板厚が厚くなれば、加工面が多く取れる切削工具の選定や加工パスも考慮する必要がある。

 自動車部品の多くは、1回の単発プレスでは加工できないため、順送、トランスファーなど、複数回のプレス加工によって成形される。1回の工程でどこまで曲げるのか、絞るのかなど、熟練のノウハウや金型の精度が必要になる。

 余談だが、超ハイテン材のような引っ張り強さが高い素材を常温のまま加工することは難しく、欧州勢はホットプレス(鋼板を900℃程度にしてプレスを行うこと)によって加工する手法を取る場合も多い。しかし、鋼板を熱する工程で多くのCO2が排出されてしまう。超ハイテン材を金型によって冷間加工できるのは日本の金型技術と材料技術が高いことを意味する。

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