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屋外なのに夏は涼しく冬は暖かい、パナソニックが駅のホームで「頭寒足熱」鉄道技術(1/2 ページ)

大阪メトロは大阪・関西万博の会期中の混雑に対応するため、ホーム上の待合室を撤去した。これまで設置されていた待合室は扉で区切られた個室で、ホームのスペースを狭める。そこで、狭いホームでも快適さを提供したいと考えた大阪メトロが設置したのは、パナソニック 空質空調社が開発した扉のない前面開放型の「待合ブース」だ。

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 連日の猛暑の中でも、大阪・関西万博はにぎわっている。お盆休みと重なる8月10〜16日の期間は、1日に16万〜19万人が来場した(スタッフやメディアなど関係者も含む)。会場に向かう公共交通機関も混み合う。

 大阪メトロは大阪・関西万博の会期中の混雑に対応するため、ホーム上の待合室を撤去した。これまで設置されていた待合室は扉で区切られた個室だった。空調がきいているため夏の暑さや冬の寒さをしのぎやすいが、ホームのスペースを狭める。そこで、狭いホームでも快適さを提供したいと考えた大阪メトロが設置したのは、パナソニック 空質空調社が開発した扉のない前面開放型の「待合ブース」だ。


狭いホームでも冷暖房を提供できる「待合ブース」。設置スペースは既存の個室型の待合室から半減[クリックで拡大] 出所:パナソニック

 待合ブースは従来の個室型の待合室と比べて半分のスペースで設置できる。ホーム上で利用者が歩くスペースを広く確保しながら、個室型の待合室よりも夏は涼しく、冬は暖かく感じさせることに成功した。待合ブースが設置されたのは地上を走る区間の駅のホームで、強い風にも日差しにもさらされる。そのような環境下でどのように快適な空調を実現したのか、パナソニック 空質空調社に話を聞いた。

 待合ブースを開発したのは、パナソニック 空質空調社のIAQ事業部 R&Dセンター 空質空間開発部だ。IAQは「インドアエアクオリティー(室内の空気の質)」に由来し、屋外の空調は初めての取り組みだ。また、鉄道会社と直接やりとりして空調を設置するのも今回が初めてとなる。

冷気/暖気は回収して再利用


二重の天井で空調空気をコントロールする[クリックで拡大] 出所:パナソニック

 待合ブースは、大阪メトロ中央線朝潮橋駅の2番線ホームに設置された。同駅は大阪・関西万博の会場がある夢洲駅まで3駅のところにある。大阪湾も近く、海風が強い。実証実験として、2025年2〜10月の期間限定で設置されている。

 待合ブースはベンチ付きで、片側に線路があるホームの壁際に設置されている。ベンチの背もたれの後ろに空調機がある。室外機は待合ブースの上部(高さ2.5m程度)に設置。冷房中に近くを通っても不快な熱さを感じさせないようにした。

 ベンチの部分に対し、頭上と足元に空調の吹き出し口があり、夏は頭部に向けて冷気が、冬はふくらはぎのあたりから暖気が吹き出す。夏は気流が直接頭に当たることで涼しくなり、汗をかいた状態であればさらに気化熱で涼しく感じやすい。最近増えている猛暑日(最高気温が35℃以上)でも涼しく感じさせることができる。また、駅という場所の特性上、待合ブースで冷風を浴びるのは短時間にとどまるため、寒さや乾燥などの不快さは感じにくいという。


待合ブースの外観。室外機は上部に[クリックで拡大] 出所:パナソニック

 このように、空間を冷やしたり暖めたりするのではなく「頭寒足熱(熱くなりやすい頭を冷やし、冷えやすい足をあたためること。季節を問わず有効だとされている)」の状態を作り出し、快適性を高めた。待合ブースの空調機やファン自体は既存の商品を利用している。頭上と足元の吹き出し口や、吸い込み口のための内部構造は待合ブースに合わせて今回独自に設計した。


冷気や暖気の吹き出しイメージ[クリックで拡大] 出所:パナソニック

 半屋外のホームに設置されているため、前面開放型の待合ブースでは空調機で作った冷気や暖気が逃げてしまう。そこで、待合ブースに内天井と外天井を設けることで外風の影響を抑制する。内天井は冷気が外に逃げないよう、丸みがつけられている。

 また、スポットクーラーなどのように冷気を出しっぱなしにするのではなく、ベンチの背もたれ近くに設けた吸い込み口から冷気や暖気を回収するようにした。空調機が暖めた/冷やした空気を吸い込んで回収し、再利用することで効率を高めている。これは屋外向けの空調としては初めての試みだという。通常の冷房開発では、冷気を遠くまで届けてまだ冷えていない空気を吸い込んで冷やすという考え方がメインで、冷気を再利用するのは新しいアプローチだ。

 こうした取り組みにより、空調に不利な条件でも個室型の待合室と同等かそれ以上のエネルギー効率を実現する。温度をコントロールするエリアのサイズが個室型の待合室よりも小さいため、効率化しやすいという。また、待合ブースは構造物が少ないため設置コストも低減できるとしている。

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