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にわかに盛り上がってきた「ロケット発射&回収船」って何?イマドキのフナデジ!(5)(4/4 ページ)

「船」や「港湾施設」を主役として、それらに採用されているデジタル技術にも焦点を当てて展開する本連載。第5回は、日本郵船と商船三井が相次いで記者説明会を開いた「ロケット発射&回収船」と、その実現に求められる技術的条件に迫る。

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商船三井、将来宇宙輸送システム、常石ソリューションズの民間主導計画

 一方、商船三井も将来宇宙輸送システム(ISC)、常石ソリューションズとの協業で、船を起点とした宇宙輸送インフラの構築に向けて、ロケット発射および回収を洋上で行う専用船の開発に乗り出した。

 このプロジェクトは、将来的に1000回以上の再使用を目指すロケット「ASCA」の実用化を視野に入れたもので、開発と事業の主体となるISCでは2040年代に本格的な宇宙旅行の商業化を見据えている。海上での発射と回収は、人口密集地を避けやすく、打ち上げ角度や軌道の自由度も高い。特に「日本近海の広大な海域は、安全かつ柔軟な発射運用にとって理想的な環境だ」とISCは説明する。

 船の開発で重要となるのが、係留や錨泊ができない洋上における船の高い定点保持能力と、波浪条件下でも安定してロケットを回収できる耐航性にある。DPSなどの既存海事技術は既に高い効果を発揮できる技術レベルにあるが、ロケット回収時に想定される強力なブラストの高温に耐える甲板や、揺れによるロケット発射ならびに着船時のリスクを最小化する減揺機構などの確立が課題となる。

 ISCも「とりわけ重要なのが、経済性の担保」と強調する。建造と運用コストを回収できるオペレーション頻度を確保できなければ、技術的に実現可能でも事業として成立しない。そのため、このプロジェクトで建造(もしくは改造)する船は競合他社も利用できる「汎用プラットフォーム」として設計する予定だ。将来的には「海上スペースポート運営会社」として事業分社化する構想も見据えている。

 法的規制面でも前例がほぼないことから、関係当局との綿密な協議が不可欠だと考えている。米国でロケット回収船運航の先行事例を持つSpaceXも規制緩和を得て洋上回収を実現している。本プロジェクトでもその先行事例を参考に、商船三井らが米国船級協会(ABS)と連携し、既に法的規制への対応を検討するワークショップを開催している。今後は日本国内の法的規制体系に即したガイドラインの策定と、法制化に向けた関係官庁への働きかけを求めていくとしている。

 ASCAの開発プロジェクトでは現在、小型離着陸実験機「ASCA hopper」で飛翔高度10m程度の実証を続けている段階にある。初期型となる小型衛星打ち上げ実証機「ASCA1.0」は2025年中の飛行試験を目指している。その後はASCA1.0の後継として、2028年に人工衛星を打ち上げ可能な「ASCA1.2」、2032年には人が宇宙へ行ける「ASCA2.0」、2040年代には本格的な宇宙旅行を可能にする「ASCA3.0」の実現を目指すとしている。

ISCが2025年に打ち上げを目指す「ASCA1.0」
ISCが2025年に打ち上げを目指す「ASCA1.0」。ロケット発射&回収船はこのサイズの運用に対応することを想定している[クリックで拡大] 出所:ISC

 ロケット回収船もそれに合わせて開発を進めているが、船の建造と運用開始までは相応の年数がかかることから、回収(着船)の実現は2029〜2030年ごろを見込んでいる。最終的には2030年代に高頻度で打ち上げと回収を繰り返す運用を実現し、ロケット発射&回収船はその中核を担うことを目指している。

 さらに、海が荒れている状況下では船が回収に対応できない可能性があるなど「経済性に加えて回収できる海象条件の幅が課題という認識」をISCは示している。

 船がどの程度の条件下で稼働できるか、その稼働率をどう高めるかが、ロケット打ち上げ全体のスケジュールや成功率にも直結する。ISCは「これらの制約をどう乗り越えるか、または逆にどのような設計や運用であればより多くの条件で回収できるかが今後の検討課題だ」と説明している。

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