再使用型ロケットをアジャイル開発、将来宇宙輸送システムが2028年度に実用化へ:宇宙開発(1/2 ページ)
将来宇宙輸送システムは、再使用型ロケットの実用化に向けた小型離着陸実験機「ASCA Hopper」の開発プロジェクトについて説明した。
将来宇宙輸送システム(ISC)は2024年8月14日、東京都内で会見を開き、再使用型ロケットの実用化に向けた小型離着陸実験機「ASCA Hopper」の開発プロジェクトについて説明した。2024年度内にASCA Hopperによる高度10mの離着陸試験を行った後、2025年度には小型衛星打ち上げ実証機「ASCA 1」を用いて高度1kmの離着陸を実現し、2026年度には高度100kmの宇宙実証まで進め、2027年度には衛星軌道投入を行い、2028年度までに商用サービスを提供したい考えだ。
ISC 代表取締役社長 兼 CEOの畑田康二郎氏は「日本はJAXA(宇宙航空研究開発機構)をはじめ再使用型ロケットの開発で世界に先駆けて挑戦してきた国だ。しかし、研究開発が主体の取り組みだったこともあり、実用化では米国のSpaceXに先行されているのが実情だ。日本における再使用型ロケットの技術を継承して実用化するのはスタートアップの役割だと考え、当社で取り組むことを決めた」と語る。
日本における再使用型ロケットの開発と実用化の状況。JAXAが1998〜2007年まで研究開発に取り組むなど世界に先駆けてきたが、実用化では米SpaceXに大きく遅れている[クリックで拡大] 出所:将来宇宙輸送システム
ISCが今後開発を進めていくロケット「ASCAシリーズ」の名称は、AeroSpace CArrierの略語であるとともに、日本の飛鳥文化と同様に「分野や国境を越え諸外国の技術を積極的に取り入れてスピーディーな成長を遂げたい」(畑田氏)という思いから名付けられた。
2024年度内に高度10mの離着陸試験を目指すASCA Hopperを起点に、2025年度には高度1kmの離着陸を目指すASCA 1.0を開発し、2026年度には高度100kmの宇宙実証をASCA 1.1で実現した後、2027年度にはASCA 1.2で搭載する100kg級小型衛星の軌道投入とロケットの着陸/再使用を目指す計画になっている。畑田氏は「これまでのロケット開発は5〜10年かかっていたが、これは決定したスペックに落とし込んでいくウオーターフォール開発だったからだ。当社は、ITシステムの開発で一般的なアジャイル開発を採用することで毎年進化させていく」と説明する。
実際に、ASCA Hopperについては、2023年末の開発プロジェクトの立ち上げから約半年でエンジン単体の開発を完了するところまで進められている。このアジャイル開発の原動力となったのが、独自の研究開発プラットフォームである「P4SD(Platform for Space Development)」である。クラウドのAWS上に、設計プラットフォーム、テスト自動化プラットフォーム、シミュレーションプラットフォームを構築しており、開発に関わる全ての過程をデータ化し、その後の分析や改善など、開発に関わる全てが一元管理できるようになっている。「P4SDによって、新たに加わるメンバーでも開発プロジェクトの進捗状況を把握できるようになっている。開発目標を修正する必要がある場合でも、柔軟に対応することが可能になる」(畑田氏)という。
例えば、ASCA Hopperの開発プロジェクトの立ち上げ時期のメンバー約5人から、現在は約20人まで増加している。P4SDによって開発に関わる情報の共有をスムーズに行うことで、新たに加わるメンバーの力を引き出せるようになっているというわけだ。
ASCAプロジェクトの長期ロードマップでは、2028年にASCA 1による100kg級小型人工衛星の打ち上げサービスを始める計画である。畑田氏はASCA 1の打ち上げサービスについて「当初は1回当たり5億円で提供したい。2030年までにロケット7機体制で再使用することで、年間100回の打ち上げを行えるようになれば、1回当たり4億円くらいまでコストを抑えられるだろう」と強調する。そして、2032年をめどに開発を進める「ASCA 2」では有人宇宙飛行サービスを、2040年には単段式宇宙往還機(SSTO)となる「ASCA 3」の開発を目指す方針だ。
独自の研究開発プラットフォームであるP4SDについても「日本国内でもロケット開発への参入が増えていることを考えると、将来的に社外にサービス提供することもあり得るだろう」(畑田氏)という。
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