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ソニーが“生地”を開発? 着るだけでリフレッシュする「R WEAR」とは何か小寺信良が見た革新製品の舞台裏(36)(1/3 ページ)

2025年7月にソニー独自開発の生地「R FAB」を使用した、疲労回復効果と超消臭抗菌機能を持つリカバリーウェア「R WEAR」が発売された。ソニーが独自開発した“生地”とはどういうもので、なぜリカバリーウェアに取り組むのか。その舞台裏を小寺信良氏が伝える。

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連載「小寺信良が見た革新製品の舞台裏」趣旨

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今までにない新しい製品のアイデアや発想はどこから生まれてきたのか小寺。映像系エンジニア/アナリストの小寺信良氏が商品企画や設計・開発の担当者へのインタビューを通じ、革新製品の生まれた舞台裏に迫る。

⇒連載「小寺信良が見た革新製品の舞台裏」のバックナンバー


 「特別な機能を持った服」というものが最近注目を集めている。見た目より暖かいというだけなら、裏地に起毛素材を使うといったものは古くからあるが、先進の素材テクノロジーの力を使い、疲労回復、肩こり、腰の痛みに効果があるとする「リカバリーウェア」が、一種のブームとなっている。

 そんな中、2025年7月から販売開始されたのが、ソニー独自開発の生地「R FAB(アールファブ)」を使用した、疲労回復効果と超消臭抗菌機能を持つリカバリーウェア「R WEAR(アールウェア)」だ。販売はソニーグループとエムスリーの共同出資会社「株式会社サプリム」が担当する。

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ソニー独自開発の生地「R FAB」を使用したリカバリーウェア「R WEAR」[クリックで拡大] 出所:サプリム

 この3社は以前にも、睡眠時無呼吸症候群のリスク計測サービス「Sleep Doc」の提供で協業しており、医療系のサービスを得意としているようだ。今回のR WEARも、一般医療機器の認定を受けた商品となっている。

 しかし、ソニーとアパレル製品は、非常に縁遠いように見える。そこには一体どんなストーリーがあったのか、話を聞いてみた。今回お話を伺ったのは、ソニーグループ 事業開発プラットフォーム 事業開発部門 SmartLife事業推進室 1課 統括課長の山本琢也氏だ。

ウェア開発に至った経緯とは

小寺 今回のR WEARですが、ソニーからアパレルというのは、かなり遠く見えて、発売までは紆余曲折がありそうです。一体どうしてリカバリーウェアを開発することになったのか、その背景を伺えますか。

山本氏 われわれはソニーグループの中で、事業開発プラットフォームの事業開発部門に所属しています。ソニーグループ各社を横断して新規事業のネタがないかを探索し、新しい事業を作りだすというミッションを担う部隊です。

 その中でわれわれはヘルスケア関連の新規事業開発をやっております。以前取材いただいた「Sleep Doc」の次の新しい事業として、今回の「R WEAR」というリカバリーウェアを手掛けました。

 一般的には認知されていないかもしれませんが、もともとソニーグループでも、素材の研究開発などを行ってきました。今回のリカバリーウェアのもとになる繊維素材の、さらに大本となる技術は、リチウムイオン電池の電極用素材である炭素材の研究開発を行う中で生まれたものです。電極用炭素材の開発過程で特殊な吸着特性を持つ炭素材「トリポーラス」が生まれました。

 トリポーラスは天然由来の多孔質カーボン素材で、強い消臭抗菌効果があります。これを使って他に事業展開できないかということを、トリポーラスチームが考え、この消臭抗菌機能をベースに従来もプロダクト展開を進めてきました。

 例えば、ロート製薬さんから発売されてる「デ・オウ」という消臭ボディーソープやシャンプーなどの商品を展開しています。他にもアパレル展開として、糸にこのトリポーラスを練り込んで生地にしたものを、グンゼさんから消臭Tシャツ「QCX」として販売させていただいたりもしています。

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トリポーラスの構造イメージと拡大画像[クリックで拡大] 出所:ソニーグループ

小寺 そういう意味では、この素材がアパレルで使われたことは過去にもあったということですね。今回、あらためてリカバリーウェアというジャンルに参入したのは、どういうことを考えられたからなのですか。

山本 やはり昨今のリカバリーウェアの市場の伸びが大きいですね。メディアを見ても各社がCMを流していますが、「快適睡眠」など、リカバリーウェアのジャンルや市場は今ものすごい勢いで成長しています。

 われわれ事業探索部隊としても、こういった市場に何か新製品を作れないかというのを模索してる中で、「炭」の持つ「遠赤外線効果」に目を付けました。トリポーラスでは従来「消臭抗菌効果」を利用した製品展開を行ってきましたが、これに加えて、遠赤外線効果が出せないかということを研究開発しました。

 実際に生地の試作を繰り返し、第三者機関と検証した結果、遠赤外線効果が認められたところで、他にはないリカバリーウェアというビジネスを立ち上げる流れとなりました。このトリポーラスの含有率をコントロールすることで、強力な消臭効果と遠赤外線効果を得られる素材が誕生しました。そして、この生地を「R FAB」としてブランド化して、展開しているという流れです。

小寺 繊維開発の段階で、炭素の原料としてモミガラを活用されたそうですね。これも面白いです。

山本氏 これはトリポーラス開発チームの取り組みにはなりますけれど、モミガラは世界で年間1億トンぐらい焼却処分されているんですね。しかし、燃やせばCO2が発生して環境破壊につながります。それをわれわれの技術で何とかできないかということで、モミガラを再利用し始めました。

 実はモミガラを炭にしたあと、シリカを取り除く工程にソニーの特許があります。一般的な活性炭は均等に穴が開いているんですが、われわれの特許である焼却技術を使うと、大中小のさまざまな穴が開きます。それを「多孔質カーボン」と呼んでいます。

 活性炭が消臭するっていう原理は、においの元をこうした穴に取り込んで閉じ込めるっていうことですが、においや菌には大中小さまざまなサイズがあります。従って一般的な炭だと、この穴にはまらないものは吸着せずに弾いてしまいます。一方、多孔質カーボンはさまざまなサイズの穴が開いてるので、いろんな菌やにおいの元を吸着して閉じ込められるので、非常に強力な消臭効果があるわけです。

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