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ガンダムに憧れ月面を研究 月の石は地球が失った情報を記録した「メディア」材料技術(2/4 ページ)

立命館大学 宇宙地球探査研究センター ESEC 准教授の長岡央氏は「月面での『その場探査』・サンプル採取技術開発への挑戦〜月の石は地球創成の“ナノレベルのタイムカプセル”〜」と題した講演を行った。

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大阪・関西万博で展示のリターンサンプルとは?

 長岡氏は「われわれが月に関心を抱くのは、地球に最も身近な天体でありながら、地球には残っていない、45億年前に形成された石が存在し、地球型惑星における形成初期の情報を復元できるからだ。人類が宇宙へ進出するための宇宙港として使える点も注目されている」と語った上で、月面探査プロジェクトである「アポロ計画」「ルナ計画」「嫦娥6号計画」で月面から回収したサンプル「リターンサンプル」について触れた。

 米国が1961〜1972年に実施したアポロ計画やソ連(現:ロシア)が1959〜1976年に行ったルナ計画では月の表側の赤道付近から、嫦娥6号計画は初めて月の裏側からサンプルを回収した。「月の赤道付近から多くのサンプルが回収されているのは、月探査機のアポロやルナが赤道の上空を周回した点や赤道付近が比較的にフラットで着陸しやすい点が関係している。アポロ計画で回収した月の石は合計で0.4トン(t)だ」(長岡氏)。

「アポロ計画」「ルナ計画」「嫦娥6号計画」のリターンサンプルの回収位置
「アポロ計画」「ルナ計画」「嫦娥6号計画」のリターンサンプルの回収位置[クリックで拡大] 出所:ESEC

 アポロ計画やルナ計画のリターンサンプルは、1970年に大阪府吹田市で開催された「日本万国博覧会(大阪万博)」で披露され、大阪市此花区で開催されている「2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)」ではアポロ計画や嫦娥6号計画のリターンサンプルが展示されている。

 長岡氏は「大阪万博のアメリカ館で披露されたリターンサンプルはアポロ12号が回収した月の玄武岩で、大阪・関西万博のアメリカパビリオンではアポロ17号が回収した玄武岩が展示されている。アポロ17号は地質学者のジャック・シュミット氏が搭乗していたため、リターンサンプルも興味深いものが多い。大阪・関西万博の中国パビリオンでは月面探査機の嫦娥6号が月の裏側で回収した玄武岩を披露している」と話す。

 月面探査機は過酷な月面環境に対応するように開発されている。月は昼が2週間で、夜は2週間となる他、温度は日向が120℃、日陰が−80℃、夜間が−170℃となる。重力は地球の6分の1で、放射線は地球と比べて50〜250倍、表面はサイズが1mm以下の砂に覆われている。

過酷な月面環境
過酷な月面環境[クリックで拡大] 出所:ESEC

 月のリターンサンプルの95%以上は、斜長石、カンラン石、輝石、チタン鉄鉱で構成されている。「月の石と地球の石の大きな違いは、水などが存在するため地球の石が月の石と比べて多種多様である点だ。月の石の中には、地球では見つからないような非常に古い石がある点も違いとなる。冥王代である40億年以上前の石が月から見つかっている。そのため、冥王代のサンプルから地球の過去の姿を知ることができる」(長岡氏)。月や地球の石の年代測定は、放射性同位体元素の放射性同位体の量とその半減期から行うという。

 長岡氏は「月の石は、地球で生命が生まれる前や、地球で発見された最古の石よりもさらに前に創出されており、地球が形成されたときの情報を保存した貴重な『天然の記録メディア』だ。月と地球ができてから2つの天体は常に近くで、約45億年の長い時間を共に過ごしてきた。しかし、地球の表面は水や風の影響で、内部はマグマの活動により、非常に古い石が残らなかった。地球では既に手に入らない過去の姿を、月のタイムカプセル(石)を開ける(調べる)ことで知ることができる」と表現した。

月の石と地球の石の違い
月の石と地球の石の違い[クリックで拡大] 出所:ESEC

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