デジタルヘルスを駆使して高齢者介護改革を目指すオーストラリア:海外医療技術トレンド(121)(3/4 ページ)
本連載第31回で、オーストラリア政府の「2018〜2022年オーストラリア国家デジタルヘルス戦略」を取り上げたが、同国のデジタル技術は医療から介護分野へと拡大している。
高齢者介護データ・デジタル戦略におけるAI利用の可能性
また、オーストラリア保健・障害者・高齢化省は、2024〜2029年高齢者介護データ・デジタル戦略と合わせて、具体的な行動計画(関連情報)を公表している。
図4は、この行動計画の概要を示したものである。

図4 2024〜2029年高齢者介護データ・デジタル戦略行動計画の概要[クリックで拡大] 出所:Department of Health, Disability and Ageing「Action Plan: Aged Care and Digital Strategy 2024-2029」(2024年7月3日)を基にヘルスケアクラウド研究会作成
ここでは、前述の図2のアウトカムおよび優先順位に準拠して具体的な行動を設定し、おのおのの進捗状況を可視化している。
この中で、高齢者ケアにおけるAI(人工知能)やVR(仮想現実)/メタバースの利用については、「アウトカム4:最新のデータとデジタル基盤が、協調的で標準に基づいたケアシステムを支える」の「優先順位8:イノベーションを奨励し、管理責任を果たす」の中で、以下のようなアクションを計画している。
- AIとイノベーションのフレームワーク:
AIをはじめとする新興技術は、効率性の向上、ケアの改善、高齢者のアウトカム向上につながる可能性を秘めている - [具体的アクション]
- AIの安全かつ効果的な使用に関して既存のエビデンスと研究をレビューする
- AIの導入と活用に関して既存のガイドラインとガイダンスを評価する
- AIソリューション導入に伴うリスクと関連する管理策を調査する
- 新興ソリューションの安全で管理された実証試験および実証プロジェクトについて、政府のガイドラインを採用する
- 有望な分野における実証試験や実証プロジェクトを推進する
- 高齢者ケアにおけるAI技術の検証:
複数の検証プロジェクトを通じて、データ入力を効率化するAI支援プロセスの可能性を探り、高齢者ケアにおけるAIの活用方法を検討する - [具体的アクション]
- 技術アプリケーションとプロセスを設計する
- 最大20人の医療専門家と試験運用を行う
- システムの評価基準と反応について報告し、改善点や機会(高齢者ケア従事者との大規模トライアルの可能性など)を明確化する
- 高齢者ケアにおけるVRの実証試験:
複数の実証試験で、高齢者ケアサービスの提供を改善するためのVRの可能性を探る - [具体的アクション]
- 支援技術に関する教育プラットフォームを設計する
- 20人の作業療法士と連携し、VRの実証試験を行う
- 実証実験の結果を評価し、高齢者ケアにおいて他の目的でのVR活用に関する調査結果と提言を報告する
本連載第87回で触れたように、オーストラリアは、ゲーミフィケーションの産業振興と雇用創出に取り組んでおり、高齢者介護分野での新技術適用が注目される。
1997年高齢者介護法から新たな2024年高齢者介護法へ
他方、オーストラリアの介護法制についてみると、政府資金による高齢者介護を規定した1997年高齢者介護法(Aged Care Act 1997)(関連情報)に基づいて、資金提供、規制、サービス提供者の承認、ケアの質、ケアを受ける人々の権利などの項目に関する規則を定めてきた。
従来の1997年高齢者介護法がサービス提供者や資金供給に焦点を当てていたのに対して、利用者中心の介護の観点から、2018年10月8日、「高齢者介護の質と安全性に関する王立委員会」が設置され、2021年3月1日には「ケア、尊厳、そして尊重」と題する報告書がオーストラリア連邦議会に提出された(関連情報)。
この報告書の勧告を受けて、オーストラリア保健・障害者・高齢化省は、高齢者自身の権利を最優先する「権利ベース」のアプローチの導入により、高齢者が介護サービスの中心となり、そのニーズや選択、管理が尊重されるよう設計された「2024年高齢者介護法」を連邦議会に上程し、2024年11月25日に可決/成立した(関連情報)。同法は、2025年11月1日に施行される予定である。
図5は、2024年高齢者介護法の全体像を示したものである。

図5 2024年高齢者介護法の全体像[クリックで拡大] 出所:Department of Health, Disability and Ageing「New Aged Care Act」(2025年6月12日更新)を基にヘルスケアクラウド研究会作成
さらに2024年高齢者介護法では、既存のホームケアパッケージ(HCP)プログラムと短期リハビリ期ケア(STRC)プログラムに代わって、高齢者が自宅でより長く自立した生活を送れるように支援するための在宅支援(Support at Home)プログラムが導入されることになった。この在宅支援プログラムでは、従来の訪問介護サービスを統合し、新たな分類体系、公平な料金設定、早期介入への注力、複雑なニーズを抱える人々への高水準のケアなどを導入する予定である。
高齢者が在宅支援プログラムの対象として認定された場合、事業者と共有するための「決定通知」と個別支援計画が交付される。これには以下の内容が含まれる。
- 高齢者の介護ニーズと目標の概要
- 分類と、それに連動した継続的な四半期ごとの予算
- 短期的支援の承認(以下のような予算を含む可能性がある):
- 補助技術(アシスティブテクノロジー)
- 住宅改修
- 回復支援パスウェイ(例えば、集中アライドヘルス支援)
- 終末期ケアパスウェイ
継続的に四半期ごとの予算が割り当てられている高齢者は、承認されたサービスのリストに基づいてサービスを利用することができる。高齢者本人は、独立した評価者と連携して、どのサービスをどのくらい(月当たりの時間数や単位など)利用したいかを決定する。また、利用者はいつでもサービス提供者と相談の上で、承認されたリストの中から受けるサービスの組み合わせを変更することができる仕組みになっている。
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