船乗りであって“情シスリーダー”でもある! 意外と知らない通信長のお仕事:イマドキのフナデジ!(4)(3/3 ページ)
「船」や「港湾施設」を主役として、それらに採用されているデジタル技術にも焦点を当てて展開する本連載。第4回は、「にっぽん丸」で通信長を務める出口勝浩氏のインタビューから、表に出る機会が意外と少ない通信長の「イマドキの仕事」に迫る。
新技術への対応と次世代船への継承
客船における通信環境は、船舶の運航管理はもとより、船内業務や船員の福利厚生、船客サービスなどを支える基盤であり、出口氏も「通信の目的の一つとして、船員の福利厚生向上と船客の利便性向上を重視しています」と説明する。また、導入後の不具合対応を減らすために、例えば高速かつ低遅延なLEO(低軌道)衛星通信であるStarlinkなどの最新技術についても、いきなり導入するのではなく、必ずトライアルを経て、実運用に耐え得るかどうかを現場で見極める。これは、船という陸から遠く離れた閉鎖かつ外的変動要因の多い環境における技術導入の鉄則であり、「使えるもの」を「確実に使える状態で提供する」ための重要なプロセスといえる。
こうした新技術導入の意思決定は、通信長だけで完結するものではない。通信部門全体で社内と連携し、特に本社システム部門と日常的にオンラインミーティングを重ねながら、技術仕様やサービス方針を擦り合わせているという。にっぽん丸の通信長経験者が現在、本社システム部の責任者として新造客船の設計検討に携わっており、その存在も現場の声を確実に反映させる大きな要素となっている。
出口氏は「新技術の評価と導入は、提供側の責任だけでなく、運用者自身の継続的な学びでもあります」と語る。日々の業務を通じて機器の構成や通信特性に触れ、必要に応じて再設計や設定の最適化を自ら行う。その動機は「好奇心」でもあり、「現場責任者としての誇り」でもあるという。
にっぽん丸自体は、建造から年数が経過した船であり、船体構造や電源容量など、船型(総トン数で2万2472トンは現代の客船としては小型といえる)といったハードウェア的な制約は存在する。しかし、だからこそ現場では「できる範囲を最大限に使う」工夫と、「次の船に何を引き継ぐか」の意識が同時に求められる。
にっぽん丸で得られた知見や改善点は、陸上との密な連携を通じて共有され、より快適で信頼性の高い通信サービスへと反映されていく予定だ。
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