船乗りであって“情シスリーダー”でもある! 意外と知らない通信長のお仕事:イマドキのフナデジ!(4)(2/3 ページ)
「船」や「港湾施設」を主役として、それらに採用されているデジタル技術にも焦点を当てて展開する本連載。第4回は、「にっぽん丸」で通信長を務める出口勝浩氏のインタビューから、表に出る機会が意外と少ない通信長の「イマドキの仕事」に迫る。
“船上情シス長”が担うサポート最前線
船舶という特殊な環境でITインフラを管理する通信長の業務には、一般企業のネットワーク管理者にも通じる課題が存在する。その最たるものが、エンドユーザーのサポートだ。とりわけ客船であるにっぽん丸では、エンドユーザーは船客であり、ITリテラシーに大きなばらつきがある。通信長のサポートは、単なる技術支援にとどまらず、このようなITリテラシーが限りなく幅広いエンドユーザーの“最後の守り手”となることも少なくない。
出口氏によると、船内での通信トラブルやネット接続の不具合に対して、最初に対応するのはフロントやホテルサービス部門のスタッフになる(客船にも船客対応部署はホテルサービス部門となる)。彼らが乗客からのフィードバックを集め、それを通信部門に報告することで初めて技術者によるサポートが開始される。これは一般的な企業における“ヘルプデスクと情シスの関係”に近い構造といえる。
しかし、“ICT技術者”の人的リソースが限られる船内という閉鎖空間では、問題の切り分けや再発防止策の実行まで、通信長自らが最前線に立たざるを得ないケースもある。実際、フロント対応だけで解決できない場合、通信長が直接乗客のもとに出向いたり、電話でのヒアリングに応じたりすることも珍しくない。まさに“現場型情シス長”の真価が問われる場面といえる。
一方で、出口氏が重要視しているのは、こうした“対症療法”的なサポートだけではない。そもそも問題を起こさないように、どれだけシンプルで分かりやすいシステム設計ができるかが鍵となる。「サービスを提供する段階でいろんなことを想定できます。だからこそお客さまの身になって『こういう使い方がよりシンプルでいいよね』とか、『使いやすいよね』などの視点を持ちつつ、できるだけ機能を絞りながら仕様を決めています」(出口氏)。
出口氏は、このような現場の課題に対して「できるだけ発生するトラブルを想定しながら、あらかじめサービスを提供する前、そして提供した後も、適切に修正していくことを心掛けています」と語る。
以上のように出口氏は、船内ネットワーク機器の構成と運用管理を行いながら、システムトラブルにも現場で即座に対応する体制を担っているが、それに加えて、陸上の本社システム部門との連携も密に取るなど技術的な支援体制も整えているという。「サポート対応はそこまで苦労があるとは考えていません。陸上(本社)との連絡体制も普段から密ですし、バックアップ体制も十分に得られていると思います」(出口氏)。
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