広がるハイパースペクトルカメラの可能性――画像センシング展2025レポート:組み込みイベントレポート(4/4 ページ)
2025年6月11〜13日にパシフィコ横浜で開催された「画像センシング展2025」では、さまざまな画像処理機器やセンシング技術の展示が行われた。ハイパースペクトルカメラがアプリケーションの広がりを見せるとともに、前回から引き続きAIを活用した画像認識にも注目が集まった。
第39回「神奈川工業技術開発大賞」に輝いた低反射アルマイト材料
相模原市中央区に本社を置く東栄電化工業は、低反射のつや消し黒色アルマイト「TOEI X-Black」を展示した。同社はアルミ表面に酸化被膜を形成するアルマイト処理の専業企業であり、岩手県一関市と東京都目黒区に工場を構えている。
展示したTOEI X-Blackは、耐久性の高い色材を同社独自の技術によってアルマイト被覆に閉じ込めることで、粉じんの発生や膜の剥離のないつや消し黒色を実現した低反射アルマイト材料である。
最も黒い「TypeC」の場合で、可視光から近赤外線領域まで反射率は5%以下と小さい。価格的に手ごろな「TypeA」でも通常のアルマイトよりも反射が少なく、良好な特性を示すという。また、無機材料を使用しているため熱や紫外線にも強く、350℃でも特性が維持されるのも特徴である。塵埃(じんあい)やガスの発生もない。
通常のアルマイト処理、めっき、塗装、あるいは植毛処理に比べて優位性があり、ビジョンシステムのレンズ鏡胴や光学ステージ周囲などに本処理を施すことで、コントラストの高い画像または映像が得られる。結果として後段の画像認識や画像処理の精度を高められることを訴求し、提案していく考えだ。
なおTOEI X-Blackは、神奈川県と神奈川新聞社との共催による第39回(2024年度)の「神奈川工業技術開発大賞」に選定された。

東栄電化工業が開発した低反射つや消し黒色アルマイト「TOEI X-Black」。Type Cが最も低反射で、肉眼では完全に漆黒である。Type Bは摩耗に強い。Type Aは反射率ではType CやType Bよりもやや劣るが、従来のつや消しアルマイトに比べれば低反射で、「TOEI X-Black」の中ではコストパフォーマンスがもっと高いという(左のSBKはType Aと同一)[クリックで拡大]
DIY感覚で現場や設備をIoT化
最後に、一見画像センシングとの関わりが薄そうだがユニークな「DIY型のIoTシステム」を紹介しよう。
既存の設備をIoT(モノのインターネット)化しようとすると、設備自体に加えて、センサー、電子回路、ソフトウェアなどの知識が必要で、特に人材が限られている中小企業にとってはハードルが高い。かといって外部のインテグレーターに依頼したのでは導入コストが高くなってしまう。
IoT化のハードルになっている「高い」「難しい」「面倒くさい」を解消するために、新潟県長岡市のデパーチャーと茨城県日立市のイマジオムが企画、開発したのが、カプセライズド・ワイヤレス・ステーションを略した「CWS」である。説明員によると「画像処理とは直接は関係ないが、センシングの範囲ということで、画像センシング展に出展した」そうだ。
カプセル内にZigBeeの通信に対応した小型マイコンが組み込まれていて、市販のセンサーなどを接続できるようになっている。例えば、秋葉原の電子部品商社で入手できる照度センサー、秤量台、距離センサー、人感センサー、ブザーなどを接続することで、現場や設備のセンシングが比較的簡単に実現できる。
ZigBee経由でデータを受信するPC側のソフトウェアに関しては、SDK(ソフトウェア開発キット)を提供する他、顧客の要望があればデパーチャーが受託して開発する。
電子工作キットのようにIoTを構築できるので、顧客にデモを見せると中堅のマネージャー層にスイッチが入り、興味を示してくれることも多いそうだ。
切削加工機の稼働状況把握、潤滑油の残量管理、切り粉の山の高さ検知、梱包数把握など応用例と必要な部材をまとめたカルテ集がデパーチャーのサイトで公開されているので、参考にするといいだろう。

デバーチャーとイマジオムが開発した「CWS(カプセライズド・ワイヤレス・ステーション)」。カプセルトイよりも一回り大きいプラケース内にZigBeeを搭載したマイコンが内蔵されている。価格は4万円(税別)である[クリックで拡大]
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