自動車部品で採用を目指す高強度セルロースファイバー材料 その利点とは?:素材/化学インタビュー(3/3 ページ)
パナソニックHD MI本部 生産技術研究所 材料プロセス技術開発部 有機材料技術課 課長の豊田慶氏に、kinariの特徴やリサイクルシステム、展開事例、最近の取り組み、今後の展開について聞いた。
PBT-GF30%と比べ曲げ強度や曲げ弾性率に優れる自動車向けkinari
MONOist 高強度のセルロースファイバー成形材料についても教えてください。
豊田氏 高強度のセルロースファイバー成形材料では、これまでに開発してきた植物由来のセルロースファイバーを高濃度に樹脂に複合化する技術を応用し、ナイロン系の樹脂にセルロースファイバーを40%添加することで、優れた強度と成形性を有する低比重な成形材料として開発することに成功した。高濃度に天然由来成分を含有し、樹脂使用量を削減できる。この材料で日本有機資源協会が認定するバイオマスマーク40%を取得している。
MONOist 高強度のセルロースファイバー成形材料について、開発の背景や期間、混練と成形の技術における工夫、バイオマス度向上の利点、今後の展開を聞かせてください。
豊田氏 従来のkinariはPPベースで、ハンガー、衣服のボタン、カップ、タンブラー、食器などの日用品を中心に採用されていた。しかしながら、プラスチックの利用状況をみると、全体のうち半分は高強度で高性能なエンジニアリングプラスチックが占めており、工業用プラスチックや家電の筐体、自動車部品などで活用されている。
そこで、kinariの用途や導入実績の拡大を目的に、2022〜2025年度の3年間をかけて、高強度のセルロースファイバー成形材料の試作品を開発した。この材料の試作品は、ポリブチレンテレフタレート(PBT)に30%のガラス繊維を含有したエンジニアリングプラスチック「PBT-GF30%」と比べて、曲げ強度や曲げ弾性率、比重に優れている。つまり、軽くて丈夫で環境に優しい。
豊田氏 混練と成形の技術に関しては社外秘なので詳細は話せないが、混練技術では使用する装置の条件などを設定し、PPより硬いナイロン系の樹脂とセルロースファイバーが混ざるようにした。
また、セルロースファイバーとナイロン系の樹脂を直接結合させるために、つなぎ樹脂の一部をある化学物質に置き換えた。
今回の開発品はバイオマス度が40%だがこれが限界ではない。高強度を保ちつつバイオマス度を高められる余地がある。コストが高いエンジニアリングプラスチックと比べてバイオマス由来のセルロースファイバーはコストが低いため、バイオマス度を上げることで、製品価格を抑えられる。
今後は、自動車メーカーで高強度のセルロースファイバー成形材料に興味を持っている企業もあるため、自動車部品での採用に向けて開発を進めていく。
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