振動現象の理論的な再現に成功 不揮発性磁気メモリの性能向上に貢献:研究開発の最前線
物質・材料研究機構は、トンネル磁気抵抗で電気抵抗の変化率が振動する現象を、理論的に解明した。磁性層と絶縁層の界面における波動関数の重ね合わせを取り入れることで、振動現象の理論的な再現に成功した。
物質・材料研究機構(NIMS)は2025年6月18日、トンネル磁気抵抗(TMR)で電気抵抗の変化率(TMR比)が振動する現象を、理論的に解明したと発表した。
TMR効果は、磁性層、絶縁層、磁性層という3層構造を持つ薄膜素子「磁気トンネル接合」において、磁性層の磁化の向きによって電気抵抗が変化する現象だ。高感度な磁場センサーや不揮発性メモリなどのデバイスに応用されているが、センサー感度の向上やメモリの大容量化を踏まえて、TMR比のさらなる向上が求められている。
従来の理論研究では、TMR比は絶縁層膜厚の増加と共に単調に増加すると考えられており、NIMSも長年TMR向上に取り組んできた。また、絶縁層の膜厚に応じてTMR比が振動する「TMR振動現象」は観測されていたが、この現象の起源については20年以上明らかにされていなかった。
今回の研究では、磁性層と絶縁層の界面における波動関数の重ね合わせを取り入れることで、TMR振動現象の理論的な再現に成功した。
具体的には、多数スピンのΔ(デルタ)1状態(フェルミ波数k1)と、少数スピンのΔ2状態(フェルミ波数k2)の混成を考慮した波動関数を導入した。その結果、振動周期が2π/(k1−k2)によって表わされることが分かった。第一原理計算で求めたk1とk2の値から算出された振動周期やTMR振動の波形は、実験データと一致した。

Feにおける多数スピン状態および少数スピン状態のエネルギーバンド構造。縦軸はフェルミ準位を基準(0eV)としたエネルギーを示す。太線で示された多数および少数スピン状態の重ね合わせを考慮した点が今回の研究の新規性と言える[クリックで拡大] 出所:物質・材料研究機構
TMR振動を抑制し、安定的にTMR比を高める技術開発が進むことで、高感度磁場センサーや不揮発性磁気メモリの性能向上が期待される。
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