もう“試作だけ”じゃない 「最終製品」「量産」から見るAMの現在地と未来:メカ設計 イベントレポート(2/3 ページ)
ストラタシス・ジャパンは、ユーザー事例や最新情報を紹介するプライベートセミナー「ストラタシス・デー」を開催した。本稿では、セミナーに登壇した八十島プロシード、キャステム、m-techの3社による講演内容をダイジェストで紹介する。
AMならではのスピードを生かし、“爆速”な商品開発を実現
キャステム 新規事業部 部長の池田真一氏は、「AM技術で生み出す『真面目な商品』から、『斜め上を行くぶっ飛んだ商品』」と題し、同社における独自性の高い商品開発の裏側や、AM技術の活用とその可能性について講演を行った。
キャステムは、1970年創業の広島県福山市に本社を構える金属部品メーカーである。精密鋳造(ロストワックス製法)およびMIM(メタルインジェクション製法)を主力とし、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の聖火トーチやスキーリフト部品、医療用矯正器具、宇宙服の部品など、多様な分野に金属部品を供給している。年商は約90億円に達する。
同社は、高まる顧客要求への対応や社員のモチベーション向上、採用面での課題を背景に、2016年にB2C向けの開発部門「アイアンファクトリー」を新設。商品企画から販売、広報までを担う同部門では、Stratasys製のフルカラー3Dプリンタ「J850 Prime」「J826 Prime」など、複数の3Dプリンタを活用している。
部門設立直後には「ファブ3Dコンテスト2017」にエントリー。「3Dプリンタを使った作品」というテーマに対し、FDM方式3Dプリンタの熱を使って目玉焼きを作るという意表を突く発想で審査員特別賞を受賞した。「『枠組みにとらわれない発想がイノベーションを生む』と評価され、これが現在の企画スタイルの礎となった」と池田氏は振り返る。
池田氏は、B2C商品開発における重要な要素として「商品企画力」「ストーリー性」「旬/タイミング」の3点を挙げる。撮影用のゴジラスーツを3Dスキャンして制作したハンマー、スポーツ選手や芸能人を3Dスキャンして製作したリアルフィギュア、タガメの売買禁止日に合わせてリリースした「合法タガメ」フィギュアなど、時流を捉えたユニークな製品群を紹介し、「3Dプリンタならではのスピードがあるからこそ、旬を逃さない“爆速”開発が可能になる」と語った。
一方で、社会的意義を持つ“真面目な”製品開発にも取り組んでいる。広島で原爆の被害を受けた被ばく二世の佐々木禎子さんが折った折り鶴を3Dスキャンし、ステンレスで再現した「SADAKO」は、G7広島サミットやローマ教皇への贈呈実績を持つ。さらに、独自形状の核で真珠を育てる特許技術を応用し、ジュエリーブランド「KOHKOH」を立ち上げた。同ブランドは、日本最大規模のデザイナーズジュエリーイベント「New Jewelry TOKYO 2024」において、ベストジュエリー賞とオーディエンス賞のW受賞を果たしている。こうした多角的な取り組みが奏功し、年間800人以上の採用応募が集まるようになった他、メディア露出も増え、認知度と販売力のアップにもつながっているという。
さらに現在は、AM技術と鋳造技術を融合した新たな製造手法にも注力している。「デジタルキャスト」と名付けられたこの工法は、3Dプリンタで出力した樹脂造形物をセラミックで包み、焼成によって中空化した後に金属を流し込むというものだ。池田氏は、「この製法により金型費用や製作期間を削減でき、鉄、ステンレス、アルミ、銅など多様な材質での金属化が可能になる。短納期、低コストでの製品化にもつながる」と、新たな製造アプローチとしての有効性を強調した。
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