AIエージェントが社員と一緒に働くには? 「まずは小さく始める」:人工知能ニュース(2/2 ページ)
アクセンチュアは年次レポート「テクノロジービジョン2025」に関する記者説明会を開いた。この年次レポートから、AIエージェントの自律や信頼を巡る状況について紹介した。
ITから保険まで、AIエージェントの貢献
「爆発的な効果」の例がソフトウェア業界に出てきているという。Googleは新たに導入するコードの25%以上をAIに生成させている一方で、この2年間でプログラマーの仕事は4分の1以上が消滅したとメディアが報じている。また、プログラマーの雇用は2000年にかけての「ドットコムバブル」の時期の半分まで減少している。
山根氏は「AIエージェントが人間のやることを全て代替できるわけではないが、ソフトウェアエンジニアの仕事を任せられるようになってきた。流行しているのは、AIエージェントとソフトウェア開発者が協力して互いに指摘し合いながら練り上げていくようなやり方だ。生産性や品質が圧倒的に変わり、“前のやり方には戻れない”という声も身近で聞いている」という。
日本では、明治安田生命保険が生成AIを活用して保険営業の高度化に取り組んでいる。営業支援を行う生成AIを「デジタル秘書」として営業部門の3万6000人に展開。将来的には、顧客情報の蓄積を基に生成AIがコミュニケーションをアドバイスしたり、顧客向けのメール文案を作成したりする機能を追加していく。デジタル秘書が従業員の持っていたさまざまな情報に触れることでDX推進につなげる考えだ。このように、生成AIの活用をまずは営業など1部門から始め、型ができてから全社に広げていく戦略が大企業に向くと山根氏は説明した。
マーケティングの在り方も変わると山根氏は紹介した。マス広告で不特定多数の顧客に接触する従来の手法から、AIエージェントが顧客一人一人とコミュニケーションできるようになっていくという。文字以外のフォーマットのデータを理解するマルチモーダルや、人間の振る舞いをまねる擬人化により、AIエージェントに人間らしさを感じる人も増えている。AIエージェントによる顧客との接点を生かし、デジタルツインのユーザー像を作りながらブランディングのシミュレーションを行う……ということも山根氏は提案した。
さらに、ユーザー一人一人がAIエージェントを持つようになれば、AIエージェント同士のやりとりも増えていくと山根氏はいう。その中で他社のAIエージェントと自社のAIエージェントを連携させることも考えられ、GoogleはAIエージェント同士が自律的に情報交換するためのプロトコルを発表している。自社のAIエージェントの開発/活用と、顧客が持つ他社のAIエージェントのエコシステムでコラボレーションしていくことの両立が求められるという。
ただ、「“信頼できるAIエージェント”の完成品が市場にあり、導入してすぐに使えるわけではない」と山根氏は説明した。「信頼できるAIエージェントのリストはない。これなら大丈夫だと確かめながら徐々に進んでいく必要がある。信頼できるAIエージェントをどのように選定するか、信頼性をどのように評価するのかは、他社のAIエージェントのエコシステムでコラボレーションしていく上で重要になる」(山根氏)
進化するAIエージェントが人型ロボットに搭載されるようになれば、実生活にAIエージェントが入り込んでくることも想定されると山根氏は紹介した。反射的な動作と深い思考の両立、手足の動かし方、五感など人間らしさをロボットに取り入れる研究も盛んであることから、山根氏はロボットが社会参画することに期待を寄せる。
AIに人間味を感じながらコミュニケーションをとる人が増える一方で、人間が世界を認識する能力とAIは全く同じではない。そこでハルシネーションや人間の認識との齟齬が生まれると山根氏は指摘した。「言葉が通じるからと言って距離感を誤ってはいけない。お隣さんと付き合っていくような感覚が重要だ」(山根氏)。
AIエージェントに仕事を奪わせず、どう一緒に働くか
AIエージェントの活用でよりイノベーティブな仕事が増えていくことへの期待が高まる一方で、AIを使っていることを隠している従業員が半数を占めるという調査結果もある。「AIに仕事を奪われることへの懸念や、AIはずるいという感覚が背景にあるかもしれない。学び直しやスキルアップも含めてAI活用に取り組むようトップダウンで指示するのではなく、社内の制度や文化の設計も必要だ」(山根氏)。
AIに対する不信感で活用が遅れると、データが蓄積せず精度が上がらないという負のループに突入する。そこから抜け出すには、全社員がAIエージェントに触れる環境を用意し、社員が自発的に開発したアプリを社内で共有したり、AI活用のコミュニティーをつくったりすることが重要だとしている。山根氏は社内向けのリスキリングのトレーニング教材を作成する際もAIを活用しているという。
AIが仕事を奪っていくことへの懸念や不信感は根強い。山根氏はAIエージェントとソフトウェア開発者が協力している働き方を例に挙げ、「産業革命後と同じように新しい仕事は生まれてくる。AIエージェントとどうやって協力するか、若いエンジニアたちがジェネレートし始めており、前のやり方には戻れないというほどの新しい働き方をつくっている。今はこのように発想に任せていくのが効率的だと考えている」と山根氏は前向きな見通しを述べた。
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