海上自衛隊が取り組む無人化と自律化 UUVとUSVの開発はどうなっているのか:イマドキのフナデジ!(3)(3/3 ページ)
「船」や「港湾施設」を主役として、それらに採用されているデジタル技術にも焦点を当てて展開する本連載。第3回は、海上自衛隊が開発に取り組むUUV(無人潜航艇)とUSV(無人艇)の関連技術を取り上げる。
USVの研究開発は4つの技術領域が中心
防衛装備庁では、令和6年度(2024年度)から「戦闘支援型多目的USV(無人水上航走体)」の研究試作に着手している。これは、将来的な海自艦艇の無人化もしくは省人化に向けた中核技術として位置付けられており、警戒監視や対艦ミサイル発射といった複数の任務に対応するモジュール化構造を備える。
研究の中心となるのは以下に挙げる4項目の技術領域だ。
1つ目は潜水航行技術だ。従来のUSVは水上運用に限定されていたが、脅威接近をセンサーで感知し、USVが自律的に潜航して回避、再浮上するという水上と水中の運用を想定している。
2つ目は自動運航関連技術の確立だ。荒天下でも安定した洋上自律航行を実現するため、船体動揺制御や故障時の自己修復と対応ロジックの確立を目指す。また、陸上のリモートブリッジからの遠隔操作など柔軟な運用体系を構築する。
3つ目はミッションモジュール運用技術だ。警戒監視、火力支援、通信中継などの任務を状況に応じて切り替えられるよう、プラグアンドプレイ式のモジュール構造と、それを遠隔から統合制御するシステムを構想している。
4つ目は複数USVの連携制御技術で、複数のUSVによる艦隊運用を実現する。各ユニット間で運航データや状況認識情報をリアルタイムに共有する仕組みを開発する予定で、AI(人工知能)や分散制御技術の応用も視野に入る。
以上の事業費は約245億円(研究試作段階)で、令和9年度(2027年度)までに基礎技術の確立を目指す。その後、所内試験を通じた性能検証を令和12年度(2030年度)まで継続する予定だ。既存の小型無人艇と比して長大な航続距離と高い搭載能力を備えることで、日本周辺の広大な海域における運用を想定する。また、既存のUUVの開発成果や、岩国海洋環境試験評価サテライトなどの試験インフラを活用して、効率的な検証体制を構築する。
装備の設計思想は、ファミリー化とソフトウェア共通化によって維持整備の効率を高める一方、オープンアーキテクチャによる拡張性と柔軟性の確保も重視されている。防衛装備庁は、これらの要素技術を段階的に検証して統合しつつ、将来的な本格装備化につなげる方針だ。
令和7年度予算で考察する海自のUSVとUUVの将来
防衛省は令和7年度(2025年度)予算において、無人アセットの導入と研究開発を強化し、特に海洋領域におけるUSVおよびUUVの整備を推進する。これらは、人的損耗の低減や持続的な監視と攻撃能力の向上を目的とし、戦術的優位性の確保に寄与するものと位置付けられている。
USVについては、センサー搭載型および攻撃能力を持つ「センサー・シューター」構成の両面で導入を想定しており、水上艦艇の哨戒索敵能力を補完する無人プラットフォームとして整備を進める。有人艦のリスクを回避しつつ、相手の脅威圏内へ接近可能な特性を生かして、継続的な情報収集や先制火力の発揮を支える構想だ。
一方、UUVに関しては「長期運用型UUV」の開発に14億円を計上し、任務継続性と自律性の向上を重視した研究を進める。特に注目されるのは、水中での長時間滞在を実現するためのエネルギー効率、耐圧構造、AIによる行動判断アルゴリズムの統合だ。これにより、従来の潜水艦では対応が困難な浅海域や機雷敷設海域においても、持続的な偵察と監視、さらには機雷排除が可能になる。
UUVの活用範囲は情報収集にとどまらず、対艦対潜支援、重要インフラの監視、敵港湾への接近観測など、非対称的で柔軟な作戦にも拡張できる。防衛省はこれらの無人アセットを「コスト対効果に優れた装備体系」として位置付け、有人装備と補完関係を築きつつ、実戦的な統合作戦への適用を推進していくとしている。
こうした無人アセットは、短期間/低コストで装備化可能であり、大量運用や長時間稼働、危険環境下での運用にも適する。防衛省はこれを次世代防衛力の基幹装備と位置付け、他国の実戦運用や技術動向を参考にしながら、実証/装備/改良のサイクルを高速で回していく体制を構築している。
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