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日産が追浜に衝突実験場を増設、厚木の開発拠点と合計3カ所の体制に車両デザイン(2/2 ページ)

日産自動車はこのほど、追浜プルービンググラウンド(神奈川県横須賀市)で新たな衝突安全実験場を稼働させた。電動車の開発で衝突実験による計測や評価が増加していることに対応する。衝突安全実験場が3カ所となることで、実験実施能力(回数)は1.6倍に増える。

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ダミー人形は「生体忠実性」が向上

 衝突安全性能は、ADAS(先進運転支援システム)などの予防安全技術で事前に衝突リスクを軽減した上で回避しきれなかったリスクから最後に乗員を保護する役割を担う。日産自動車 カスタマーパフォーマンス&車両性能技術開発本部 先行車両性能開発部 担当部長の佐川浩一氏は「強固な車体と優しい拘束装置(シートベルトやエアバッグ)で乗員の命を守る」と説明。そのためにも、ダミー人形で乗員が受けるダメージを計測することが不可欠だ。


ダミー人形は頭部や首にセンサーが取り付けられており、肋骨なども人間に似せて再現している[クリックで拡大]

 現在、日産自動車ではさまざまな体格のダミー人形を扱っている。小柄な女性、北米の平均的な体格の男性、その中間や、北米平均よりもさらに大柄の男性、幼児に至るまで幅広く活用している。

 CAEによってバーチャルに再現した人間の骨格や内臓のモデルを活用した開発も進められている。デジタルであれば、リラックスして崩れた体勢や、ケガのダメージが大きくなりやすい高齢者などさまざまな対象についても再現できるため、リアルなダミー人形と併用している。

 ダミー人形は計測器の一種だ。頭や首など後遺症につながりやすい部位を中心に内部に多くのセンサーが仕込まれており、エアバッグによって顔で受ける衝撃も計測できる。正しくセンサーが取り付けられていて正確なデータが取得できるか、関節の硬さなどを毎回同じセッティングができるか、社内でメンテナンスや校正をしながら取り扱い、前面衝突や側面衝突、後面衝突など実験の目的ごとに使い分ける。ダミー人形の素材に用いられるゴムの収縮の影響を少なくするため、実験前に小さなビニールハウスで一定の温度下に置く。

 ダミー人形は、計測部位を増やしたり構造がリアルな人間に近づいたりして進化している。例えば、前面衝突用のダミー人形は生体忠実性を高めたタイプに切り替わっており、構成部品は従来の433個から1197個に、計測チャネルは101から137に増えた。肋骨などの構造が人体に近づけられている。


さまざまな体格のダミー人形を実験で使用する。幼児サイズのものも[クリックで拡大]
ダミー人形の生体忠実性が上がっている。従来のダミー人形(左)と新しいダミー人形(右)[クリックで拡大]

より多くの人を救う衝突安全へ

 新車を選ぶ消費者心理にも影響するため、NCAPで高い評価を獲得することは自動車メーカーにとって重要だ。実際の事故で起き得る衝突を模擬した試験に対応することは、交通事故死者数の減少にも寄与する。ただ、試験の難易度を上げることが目的化していくと、従来通りのモチベーションで臨むのは難しくなりかねない。

 佐川氏は「NCAP側には試験を難しくすることで自動車メーカーの安全技術を競わせる目的があるが、重箱の隅をつつくような状況にもなりやすい。東大入試の応用問題のような試験が増えて負担になっていても、安全性のイメージでの他社との競争でもあるので、やらないよりはやった方がいい。ただ、これだけやってどれだけの人を救う効果があるのかと感じているところだ」と語る。


日産自動車の佐川浩一氏[クリックで拡大]

 日産自動車の調査では、車内の乗員の死亡事故はかなり少なくなった一方で、歩行者とサイクリストの死者数がまだ減っていない。電動化が進む中でバッテリーなど高電圧部品も含めた衝突安全は引き続き重要ではあるが、日産自動車としては交通弱者の安全に重点を移しつつあるという。

 WHO(世界保健機関)の調査では、年間119万人が交通事故で亡くなっているという。死亡事故の9割は、東南アジアや西太平洋、アフリカなど中低所得国で発生している。また、低所得国の自動車保有台数は世界の1%だが、交通事故の死亡リスクは高所得国の3倍も高いという。

 交通事故死者数のおよそ半数が交通弱者で、内訳は歩行者(23%)、二輪車/三輪車(21%)、自転車(6%)、eスクーターなど超小型モビリティ(3%)となる。歩行者の死者数は2010〜2021年で3%増、自転車は同20%増だが、四輪車の乗員の死者数はわずかに減少したとしている。

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