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詳しい先輩はいなくなる デジタル技術伝承に向けたアプローチとは設備保全DXの現状と課題(2)(4/4 ページ)

本連載では設備保全業務のデジタル化が生む効用と、現場で直面しがちな課題などを基礎から分かりやすく解説していきます。今回は、技術伝承に不可欠なデジタル化への基本的なアプローチや、製造DXを阻む要因、実際にデジタル技術伝承に挑戦する企業事例について紹介します。

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事例―デジタル技術伝承に挑戦する三周全工業の取り組み

 長年フォークリフトの溶接加工を得意としてきた三周全工業株式会社は、取引先の生産ラインを止めないために、職場環境の整備の一環として設備保全の効率化やデータの蓄積に取り組んでいます。

三周全工業の背景と課題

 他社が設備保全に関する技術伝承・世代交代がうまくできずに生産ラインがストップする事例を聞き、安定的な生産のために生産機器の保全管理の履歴やデータ蓄積の方法を見直すことを決断しました。

 これまでは日常の点検業務は紙で記録し、定期点検や修理の履歴のみをExcelで管理していました。特にExcelへの記録は現場から事務所に戻った後で入力し直すことになります。

 実際の現場では、限られた人数で日常業務に追われています。そのため詳細な記録の時間が確保できなかったり、生産現場側で簡単な修理対応をした記録が残らなかったりすることによる過去の記録のブラックボックス化が蓄積されていました。

 例えば、過去のトラブルに対する報告書が残っていても「センサー交換」としか記載されておらず、何のセンサーを何のために交換したのか詳細が分からないというような事態が多発していました。

デジタル化による取り組み内容

 一からオーダーメイドで生産現場に合わせたシステム構築も選択肢にありましたが、同社は初期コスト/ランニングコストのバランスを重視したクラウドシステムを導入します。選定に重視した点の1つに、現場業務の負担軽減があります。

 例えば、記録を事務所に持ち帰ることなく、スマートフォンやタブレットから直接写真のアップロードやデータ入力ができる環境を選びました。部署を超えた報告書などのデータ共有機能を標準で搭載しているシステムを選定し、自社で共通言語の基礎的な要件定義を省略する道を選択しています。

二次元バーコードの活用

 製造機器は品番が機材の裏にあったり、内側に記載されていたりすることから、毎回確認するのに手間がかかります。少しでも手間を減らそうと、設備番号を紙に書いて機材に貼り付けていましたが、使っているうちに汚れたり破れたりして貼り直すのも手間でした。

 これを解消するため、二次元バーコードが記載されたシールを機器の見えやすい場所に貼って、データを入力するスマートフォンからバーコードを読み込めば、使われている部品の品番や過去の保全履歴が参照できます。これにより業務時間の大幅な短縮を実現しています。

結論:今後の展望とデジタル化の意義

 今回、ご紹介したように、現代の製造業が直面する労働人口の高齢化と技術伝承の課題は、従来の手法だけでは十分な対応が困難です。熟練技術者の引退という不可避な現実の中で、デジタル技術を活用して日々の作業記録やノウハウを体系的に保存・共有する仕組みは、企業の競争力維持にとって不可欠な取り組みです。

 次回の記事では、製造業における紙やExcelで行っている管理の構造を深掘りして、それらを解消するための具体的なステップについて解説します。

八千代ソリューションズ
COO(Chief Operating Officer 最高執行責任者)
山口修平

クラウド設備管理システムMENTENAの事業責任者。
大手建設コンサルティング会社にて、国土交通省が管理する社会インフラ事業のシステムエンジニアとして、河川など国土基盤のメンテナンスを支援するシステムのコンサルティングに従事。2019年に新規事業創出の部門にて、「MENTENA」の立ち上げに参画。2024年に事業承継により八千代ソリューションズを設立、人材不足・技術伝承・設備の老朽化などの社会課題に対してサービスを展開中。


⇒連載「設備保全DXの現状と課題」のバックナンバーはこちら

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