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利用シーンから“逆算”したモノづくり、独自の「ダレスバッグ」に込めた設計思想新製品開発に挑むモノづくり企業たち(10)(2/3 ページ)

本連載では、応援購入サービス(購入型クラウドファンディング)「Makuake」で注目を集めるプロジェクトを取り上げ、新製品の企画から開発、販売に必要なエッセンスをお伝えする。第10回は、兵庫県豊岡市発のファクトリーバッグブランド「ARTPHERE(アートフィアー)」が手掛けた、ダレス構造のショルダーバッグ「TONDO ワイドショルダー」について取材した。

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“メーカーマインド”を捨て、ユーザー起点の製品づくりにシフト

――これまでにMakuakeで複数のプロジェクトを展開されていますが、Makuakeを活用されてきた中で、得られた気付きはありますか?

森下氏 最初のころは完全に手探りで、プロジェクトの売り上げも50万円ほどと、かんばしくありませんでした。社内でも「これはちょっと厳しいな……」という空気が漂っていたのを覚えています。

 当時の私たちは、「いいものを作ったのだから売れるはずだ」という、いわゆる“メーカーマインド”のような考え方をどこかに持っていました。Makuakeの担当者さんが「もっとこういう見せ方をした方が伝わりますよ」と助言してくださっていたのに、私たちはその壁打ちを受け入れようとしなかった部分もあったと思います。

――そこからどのように考え方を変えていったのでしょうか?

森下氏 一番大きかったのは、「いい商品かどうかを決めるのは自分たちではなく、お客さまなのだ」という発想に切り替えられたことですね。私たちが「これはイマイチかな」と感じていた商品が意外とすっと売れていったり、その逆のケースもあったりして、あらためて気付かされることが多かったですね。

 やはり、熱狂的でコアなファンが1人でも付くような商品も魅力的ではありますが、100人のユーザーに使っていただける商品はより多くのフィードバックが集まり、その分プロダクトが育っていきます。私たちは工場ですので、100人にでも1000人にでも、同じ品質の製品を安定して届けられる体制があります。そうであれば、多くの方に受け入れられる商品づくりを目指すことこそが、私たちの強みを最大限に生かす道だと考えるようになりました。

 また、Makuakeの担当者の方と何度もやりとりを重ね、プロジェクトページで開発ストーリーを発信していく中で、「どんな人が、どんなシーンでこの鞄を使うのか」を徹底的に突き詰めるようになりました。「なぜこのポケットがあるのか」「なぜこのサイズなのか」と、一つ一つの“なぜ”を問い直していくうちに自然とユーザーの利用シーンを想定した開発スタイルへと変わっていったのです。

「片手で開閉できる」新発想のショルダーバッグ

――現在、Makuakeで展開中の「TONDO ワイドショルダー」の特徴を教えてください。

ニューダレスバッグのフレーム構造を応用して開発したショルダーバッグシリーズ「TONDO ワイドショルダー」
ニューダレスバッグのフレーム構造を応用して開発したショルダーバッグシリーズ「TONDO ワイドショルダー」。画像のブラックの他、ネイビー、グレー、オレンジを展開する[クリックで拡大] 出所:アートフィアー

森下氏 「TONDO」は、ニューダレスバッグのフレーム構造を応用して開発したシリーズです。最大の特徴は、「片手で操作できること」を重視している点にあります。例えば、傘を差しているときやスマートフォンを持っているときなど、日常生活の中には片手がふさがる場面が意外と多くあります。私たちは「ユニバーサルデザイン」という言葉をあえて使ってはいませんが、障がいのある方を含め、誰にとっても使いやすい製品を目指しています。

 これまでのTONDOショルダーシリーズは、どちらかというと小ぶりなモデルが中心でしたが、「『iPad』が入るくらいのサイズがほしい」「もう少し収納力のあるモデルがあったらいいのに」といったご要望を多くいただいていました。そうしたフィードバックを受けて誕生したのが、今回のA4サイズモデル「TONDO ワイドショルダー」です。

「TONDO ワイドショルダー」はタブレット端末も収納できるA4サイズ対応になっている
「TONDO ワイドショルダー」はタブレット端末も収納できるA4サイズ対応になっている[クリックで拡大] 出所:アートフィアー

――開発に当たって、どのような点で苦労されましたか?

森下氏 一番苦労したのは、サイズを大きくしても快適に使えるようにするための軽量化です。一般的なショルダーサイズのA4にすると、どうしても本体の重量が増えてしまいます。従来のTONDOシリーズで採用していたフレームのままでは、この条件を満たすのが難しかったため、フレームそのものを細くして軽量化できないかというところから、設計を見直しました。

サイズアップと軽量化を両立させるにはフレームの設計の見直しが不可欠だった
サイズアップと軽量化を両立させるにはフレームの設計の見直しが不可欠だった[クリックで拡大] 出所:アートフィアー

 ただし、フレームを細くすると当然ながら強度が低下してしまうため、そのバランスをどう取るかに苦労し、何度も試作を重ねました。錠前金具についても、もともと16mmだったものを8mmに変更し、ショルダーベルトの取り付け位置をフレームではなく背面の生地側に移すなどして、フレームにかかる負荷を逃がす工夫を施しています。

「TONDO ワイドショルダー」ではフレームを細くして軽量化を図ることに成功した。錠前金具も16mmから8mmにサイズダウンしている
「TONDO ワイドショルダー」ではフレームを細くして軽量化を図ることに成功した。錠前金具も16mmから8mmにサイズダウンしている[クリックで拡大] 出所:アートフィアー

 さらに、iPadなどのデバイスがスムーズに出し入れできることにも配慮しました。試作品では入り口の厚みに引っ掛かり、実用面でストレスを感じる場面がありました。そこで、ポケットの開口部の形状や縫製部分を細部まで見直し、ようやく納得のいく仕様に仕上げることができました。

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