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ファクトリオートメーション用フィールドバスの歴史とは産業用ネットワークのオープン化の歴史(4)(2/4 ページ)

本連載では、産業用ネットワークのオープン化の歴史を紹介します。今回は、ファクトリオートメーション用フィールドバスの歴史について解説します。

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オープン化でマーケットの拡大を目指す

 独自バスの欠点を解消するため、いくつかの会社は次の段階として、独自バスの仕様をオープン化してマーケットを大きくしようと考えました。

 ここでいうオープン化とは「機能、インタフェースなどの仕様が公開され、標準化されているために、誰でもその仕様にしたがった製品を開発できる。そのため、異なるベンダーの製品間での相互運用性、互換性が高いとされている考え方」とします(※1)

※1 産業オープンネット展準備委員会編「産業用ネットワークの教科書」(2019年、産業開発機構)

 オープン化の流れは、主に2つの動きから始まりました。

  • コントローラー/PLCを開発、製造、販売している大きな会社が自社で開発した独自バスを普及させるために協会を作り、その協会が独自バスの仕様を公開する
  • いくつかのコントロールベンダー、現場機器ベンダー、エンジニアリング会社などが参加して、アプリケーションの要求を満足するフィールドバスの仕様を共同で作成する

 ただし、「オープン化」したら「独自」ではなくなってしまいます。独自バスを開発したベンダーにとっては「囲い込み」ができなくなるというデメリットはありましたが、それでもオープン化することでより幅広い機器ベンダー、ユーザーに認知、採用されるという大きな可能性が出てきます。

 また、オープン化されたフィールドバスのマーケティング、認証試験などをプライベートな会社でなく公的な協会が担当することで、より「中立的な通信技術」という印象を持たせることもできました。

 オープン化を進めると、次のステップとしてすぐに考えられたのは、国内での標準化と国際標準化です。つまり、国家または国際機関から認められた規格としてのフィールドバスにしようという流れです。

 国家規格、国際規格になることは、技術的にしっかりしているという印象を与えますし、寿命の面でも安心感を与えることになります。

 この国際標準化とは。前回も説明したIEC規格の作成です。フィールドバスの国際標準化とはIEC 61158およびIEC 61784でした。IEC化の審議を始めた時は、国際標準化とは「国際機関に認められたマーケットで唯一のフィールドバス」を確立するという目的があったのですが、最終的にはマーケットに存在するいくつかのフィールドバスが、国際標準の中で共存する規格となったことは前回説明しました。

 1999年12月に成立したIEC 61158 、IEC 61784規格はその後、何回か改定され、現在の最新版は2023年3月に発行されました。最新版を見てみると、発行当時は7個だったCPF(Communication Profile Family)が21個に増えています(表1)。ただし、当初はCPFとして記載されていたCPF7 Swiftnetは現在の規格から消えています。

Communication Profiles in IEC61784 Corresponding IEC61158 types to CPs
CPF Technology name CP number
1 Foundation Fieldbus CP1/1 Foundation H1
CP1/2 Foundation HSE
CP1/3 Foundation H2
2 CIP CP 2/1 ControlNet
CP2/2 EtherNet/IP
CP2/3 DeviceNet
3 PROFIBUS/PROFINET CP3/1 PROFIBUS DP
CP3/2 PROFIBUS PA
CP3/4 PROFINET IO CC-A
CP3/5 PROFINET IO CC-B
CP3/6 PROFINET IO CC-C
CP3/7 PROFINET IO CC-D
4 P-NET CP4/1 P-NET RS-485
CP4/3 P-NET on IP
5 WorldFIP CP5/1 WorldFIP
CP5/2 WorldFIP with sub MMS
CP5/3 WorldFIP minimal for TCP/IP
6 INTERBUS CP6/1 INTERBUS
CP6/2 INTERBUS TCP/IP
CP6/3 INTERBUS subset of CP6/1
CP6/4
CP6/5
CP6/6
7
8 CC-Link CP8/1 CC-Link/V1
CP8/2 CC-Link/V2
CP8/3 CC-Link/LT
CP8/4 CC-Link IE Controller Network
CP8/5 CC-Link IE Field Network
CP8/6 CC-Link IE TSN
9 HART CP9/1 HART
CP9/2 Wireless HART
10 Vnet/IP CP10/1 Vnet/IP
11 TCnet CP11/1 TCnet-star
CP11/2 TCnet-loop100
CP11/3 TCnet-loog1G
12 EtherCAT CP12/1
CP12/2
13 Ethernet POWERLINK CP13/1 POWERLINK
14 EPA CP14/1 NRT
CP14/2 RT
CP14/3 FRT
CP14/4 MRT
15 MODBUS-RTPS CP15/1 MODBUS-TCP
CP15/2 RTPS
16 SERCOS CP16/1 SERCOS I
CP16/2 SERCOS II
CP16/3 SERCOS III
17 RAPIEnet CP17/1 RAPIEnet
18 SafetyNet p CP18/1 SafetyNET p RTFL
CP18/2 SafetyNET p RTFN
19 MECHATROLINK CP19/1 MECHATROLINK-II
CP19/2 MECHATROLINK-III
CP19/3 Σ-LINK II
CP19/4 MECHATROLINK-4
20 ADS-net CP20/1 ADS-net/μΣNETWORK-1000
CP20/2 ADS-net/NX
21 FL-net CP21/1 FL-net
22 AUTBUS CP22/1 AUTBUS
表1 IEC61158でサポートされる産業用ネットワーク(CP:Communication Profile、 CPF: Communication Profile Family)出所:IEC61158-1 Edition 3.0 2023-03 Industrial communication networks - Fieldbus specifications Part1 Table2 : CPF, CP and type relationsより抜粋

なぜ国際標準を目指したフィールドバスが多数生まれたのか

 「マーケットで唯一のフィールドバス」を目指して進められた国際標準化活動でしたが、現実は1999年当時よりオープン化したといえるフィールドバスの数がさらに増えることになりました。

 IEC規格となるフィールドバスは審議委員会に参加する国からの推薦が必要です。例えば表1の中で日本から出たものだけでも、CC-Link、Vnet/IP、TCnet、MECHATROLINK、ADS-net、FL-netなど複数あります。これがマーケットの現状と思います。

 ただし、独自バスとして誕生したフィールドバスの中でここまで生き残ったフィールドバスは限られているのも事実です。多くの独自バスは、マーケットで長い寿命を得られず、消えていきました。

 フィールドバスの国際標準化が1つの規格でまとまらなかった原因は、次のような理由と思われます。

 まず、ファクトリオートメーションのシステムに使用されるネットワークには、アプリケーションにより求められる機能に違いがでます。1つの規格で全てのアプリケーションが求める機能要求に応えるのは難しいことがあります。

 また、多くの場合、それぞれのフィールドバスはサポートする協会を持ち、その協会が普及を推進していました。それらの協会はいくつかの大きなコントロールベンダーが強く支えています。

 具体的にはPROFIBUSの場合はSiemens(シーメンス)であり、DeviceNetではRockwell Automation(ロックウェル・オートメーション)であり、CC-Linkは三菱電機などの例が挙げられます。

 これらの会社は自社のサポートするフィールドバスをストップさせて、唯一のフィールドバス規格を作ることにためらいがあったようです。逆に言うと、これらの会社が中心となってサポートするフィールドバスをまとめていたからこそ、PROFIBUS、DeviceNet、CC-Linkでは長期間にわたって仕様の拡張ができ、認証による統一性が保たれていたとも言えます。

 MODBUS、CANなどは主体となるサポート会社がそれほど強力でなかったために、1つの仕様だけではなく、その類似の仕様がマーケットに出てしまい、仕様の統一や認証という点では問題が出てきました。

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