日立製作所、現場の“匠”の知見をAIに継承できる生成AI活用サービスを開始:製造ITニュース
日立製作所は、生成AIを活用して熟練者の知見を引き出す「AIエージェント開発・運用・環境提供サービス」を始めた。現場の業務効率化と人手不足の解消を後押しする。
日立製作所(以下、日立)は2025年3月31日、建設や輸送、電力、ガス、鉄道などの現場で働くフロントラインワーカーの人手不足や技能継承の課題に対応するため、生成AI(人工知能)を活用した「AIエージェント開発・運用・環境提供サービス」の提供を開始した。熟練者の知見を取り込んだ専用AIエージェントを迅速に構築、提供するもので、同社の生成AI活用支援プログラム「生成AI活用プロフェッショナルサービス powered by Lumada」の一環として展開する。
社会インフラを支える現場では、少子高齢化に伴う労働人口の減少で人手不足が深刻化している。現場業務は熟練者の暗黙知に依存する傾向があり、デジタル技術による業務の効率化が急務となっている。こうした状況を受け、日立は業務別に特化したAIエージェントの開発と導入支援に取り組んでいる。
熟練者の暗黙知をAIで活用
AIエージェント開発・運用・環境提供サービスでは、日立の「GenAI Professional」で、エスノグラフィーやAIインタビューなどの手法を用いて、熟練者の直感や判断の基準となる知見の抽出を行う。顧客が保有する設備図面や保守記録など、多様な形式の文書を整え、AIが学習可能なデータとして活用することで、業務に即した高精度の回答を可能にする。
開発には、LangGraphやDifyといったオープン技術を活用でき、パブリッククラウドやプライベートクラウドなど、用途や要件に応じた柔軟な導入が可能だ。環境の運用や保守は日立がマネージドサービスとして提供し、顧客は安心してAIを業務に利用できる。
初回の提供サービスとして「保守問い合わせAIエージェント」を開発した。問い合わせ内容を分析し、適切な担当者への自動配信や関連情報の自動収集などの機能を備え、保守や障害対応における業務の効率化とサービス品質の向上に寄与する。
日立グループ内の実績を応用
日立グループでは、すでに複数の現場でAI活用による実績を上げている。日立ビルシステムでは、エレベーター施工現場からの問い合わせ業務に対応するAIアプリを導入している。GenAI Professionalが、関連文書とエンジニアの知見をAIにひも付ける支援を行い、問い合わせに対し約8割の精度で情報を即時に抽出できるようになった。これにより、問い合わせ対応の時間短縮と施工業務の効率化が実現したという。
また、日立パワーソリューションズでは、上下水道や鉄道などの社会インフラ設備の保守業務において、保守受付の初動判断にAIを導入した。膨大なマニュアルや障害対応記録からの情報抽出を効率化し、業務全体で約3割の効率向上を見込む。
日立は今後も、業務ごとに特化したAI活用を進めるとともに、AIが扱う情報の信頼性を判定し、不適切な回答を防ぐ「AIガードレール」の研究開発にも取り組む。現場での労働力不足の解消と、持続可能な社会の実現に貢献していくとしている。
(※)本記事は制作段階で生成系AIを利用していますが文責は編集部に帰属します(ITmedia AI倫理ポリシー)
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