G-SHOCK初採用の「タフシリコーンバンド」は2つの開発テーマの融合で生まれた:デザインの力(2/3 ページ)
カシオの腕時計「G-SHOCK」で新たに採用された「タフシリコーンバンド」は“金属調の樹脂バンドの実現”と“装着性と耐摩耗性の両立”という別軸で進められてきた2つの開発テーマが1つに合わさったことで誕生した。担当者に話を聞いた。
10年以上かけて開発 「タフシリコーンバンド」実現までの道のり
――タフシリコーンバンドの実現に行き着くまでにどのような苦労がありましたか?
齊藤氏 カシオでは、ずっと以前からG-SHOCK開発における1つの夢として「金属調の樹脂バンドを実現したい」という強い思いがあった。15年以上前にG-SHOCKを担当していた当時、私自身もその夢を追いかけ、塗装をはじめさまざまな加飾技術を取り入れて挑戦を続けていた。しかし、満足できるレベルには達しなかった。
その後、曲げにも追従でき、密着性にも優れる不連続蒸着技術と出会い、「これならいける!」という所まで進展があったが、結局、G-SHOCKの厳しい品質基準をクリアできなかった。それが10年ほど前のことだ。
安田氏 転機となったのは、偶然にも「G-SHOCKのバンドに腕なじみの良いシリコーン素材を使う」という開発テーマと、「金属調の樹脂バンドを実現する」という開発テーマの両方が私の下に舞い込んできたことだ。
もともと、4〜5年前からウレタンとシリコーンの接合に関する開発をサンアローとともに進めてきた経緯がある。シリコーンだけでは摩耗や傷に弱く、そのままではG-SHOCKの基準をクリアできないため、ウレタンで外側を保護すれば解決できるかもしれないと考えた。だが、異なる材料同士を強力に接合でき、G-SHOCK基準をクリアできる成形技術の確立に至るまでの間、たくさんのトライ&エラーを重ねた。
その後、異材質の接合にめどが付き、これをデザインや企画に提案したところ、もう1つの開発テーマである、金属調の樹脂バンドの実現も並行して進めることになり、別々で進められてきた2つの挑戦がここで1つになった。
タフシリコーンバンドは先の説明の通り、シリコーンの層の上にウレタン樹脂シートを重ねる構造となるため、ウレタン樹脂シートの裏面に加飾すれば、バンドの表面をどんなに擦っても、ウレタンの層を全部削り取らない限り、物理的に加飾を剥がすことはできない。
サンアローの協力を得て実現したこの構造であれば、「G-SHOCKのバンドに腕なじみの良いシリコーン素材を使う」と「金属調の樹脂バンドを実現する」という2つの開発テーマを一気に達成できることになる。ただ、“理論上できる”といってもG-SHOCK基準を満たす品質と納得のいく仕上がりを実現するまでには、大量のサンプルを作り、多くの失敗を重ねてきた。
そうした苦労の末、最大の難関である折り曲げ試験や摩耗試験も無事にクリアし、G-SHOCK基準を満たすバンドが出来上がった。使用感も良く、見た目も美しい、タフなバンドを実現できた。
最初から高いハードルに挑戦 試作回数も歴代トップクラス!?
――デザインの観点ではどのような苦労がありましたか?
池津氏 ベゼルに採用されているステンレスの色や質感に、蒸着による色味を合わせ込むのが非常に大変だった。光が反射するミラーのような質感はごまかしが効かないからだ。
FINE METALLIC SERIESではシルバーとゴールドのモデルがあるが、ゴールドのみイオンプレーティング(IP)処理を施している。各モデルの色出しは、蒸着と同じくウレタンとシリコーンの間に配置され、ベゼルにマッチした質感やツヤなどを出すためにトップコートを吹いている。このように説明するのは簡単だが、色の成分は少量の変化で色味が大きく変わってしまうため、思い出せないくらい何度もトライした。
出来上がったサンプルを評価する際も、見る環境で印象が大きく変わってしまうため、サンアロー側にどんな照明を使っているか問い合わせたこともあった。それくらいこだわり抜いて、色の調整を突き詰めていった。
池津氏 タフシリコーンバンドを初採用したG-SHOCKで、いきなり最もハードルの高いところから実現したと自負している。そのおかげで、樹脂バンドでありながら金属のような高級感のある見た目を追求することができた。実際、歴代の開発でもトップクラスのサンプルを作ったのではないか。蒸着をベースにカムフラージュ柄を入れたものなど、たくさんの面白いデザインに挑戦した。このような試行錯誤の過程で、次につながるアイデアも数多く生み出すことができた。FINE METALLIC SERIESに続く、タフシリコーンバンド採用モデルにも期待してほしい。
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