展示会や営業“だけ”ではダメ B2B製造業が認知されるための戦略:間違いだらけの製造業デジタルマーケティング(24)(4/4 ページ)
コロナ禍で製造業のマーケティング手法もデジタルシフトが加速した。だが、業界の事情に合わせたデジタルマーケティングを実践できている企業はそう多くない。本連載では「製造業のための正しいデジタルマーケティング知識」を伝えていく。第24回のテーマは「営業の網羅性」だ。
営業活動の優先順位と効果的なアプローチの組み立て方
企業の持続的な成長には、既存顧客との関係深化と新規顧客の獲得が不可欠である。しかし、限られたリソースを最大限に活用するためには、明確な優先順位に基づいた戦略的なアプローチが求められる。
最も優先すべきは、直接営業の質の向上である。とりわけ、既存顧客との取引拡大に向けた取り組みが重要となる。定期的なフォローアップを通じて関係性を強化し、新たな提案によってリピート受注を獲得する。さらに、取引内容の拡大を図ることで、顧客単価の向上も期待できる。
過去に接点のあった見込み客への再アプローチも、効果的な施策となる。商談には至ったものの成約に結び付かなかった企業や、問い合わせ段階でやりとりが途切れてしまった企業に対して、状況の変化を踏まえた新たに提案すればビジネスチャンスを創出できる可能性がある。これらは、全く新規の顧客開拓と比較して、投資対効果が高く、確実性の高いアプローチである。
その上で、新規の見込み客獲得に向けた施策を展開する。具体的な手法の選択は、自社の現状に応じて判断する必要がある。業界内の認知度が高く、ネットワークが充実している企業であれば、展示会出展を通じた直接的な接点創出が有効である。一方、認知度向上と継続的なリード獲得が必要な企業には、Webサイトやデジタルマーケティングの活用が効果的だ。
しかし、これらの手法は単独での活用ではなく、相互に補完し合う形での展開が望ましい。例えば、展示会前にWeb上で情報を発信し、来場を促進する。また、展示会で獲得したリードに対して、Webコンテンツやメールマーケティングでフォローする。さらに、商社や取引先との連携による紹介営業も組み合わせることで、より効果的なアプローチが可能となる。
このように、直接営業の強化を基盤としながら、Web施策と展示会を効果的に組み合わせることで、より包括的な営業体制を構築できる。各施策の実施に際しては、明確な目標設定と効果測定をしながら、継続的な改善を図ることが重要である。
結論として、まずは直接営業の強化により、既存の関係からの収益最大化を図る。その上でWebと展示会を戦略的に組み合わせることで、持続的な成長を実現する体制を整えることが求められる。いずれの施策も、単独では十分な効果を発揮できない。複数の手法を適切に組み合わせ、それぞれの特性を生かした統合的なアプローチの構築が、今後の営業戦略の要となるのである。
まとめ
B2B製造業における営業活動の本質は、「認知の獲得」と「関係構築」にある。本稿では、展示会、直接営業、Webサイトそれぞれの特性と課題を見てきた。どの手法も単独では万能ではなく、一長一短がある。とりわけWebサイトは、「単なるオンラインカタログ」と軽視されがちだが、それは大きな誤りである。実際に多くの企業が製品選定の初期段階でWeb検索を活用しており、適切に運用されたWebサイトは強力な営業ツールとなり得る。
しかし、ここで重要なのは、Webサイトもあくまでも「ツール」の1つだということだ。それぞれの手法の強みを生かし、弱みを補完し合う形で組み合わせることで、より効果的な営業活動が実現できる。自社の現状を正しく理解し、リソースを適切に配分しながら、継続的に改善することが求められる。顧客の購買行動の変化に応じて、オフラインとオンラインを効果的に組み合わせた統合的なアプローチを構築することが、これからのB2B製造業における競争力の源泉となるだろう。
筆者紹介
永井満(ながい みつる)
テクノポート株式会社 Webマーケティング事業部 名古屋オフィス責任者
日本大学大学院(航空宇宙工学専攻)を卒業後、新卒で入社したボッシュ株式会社にてディーゼルエンジンの設計職を経験した後、テクノポート株式会社へ入社。現在はWebマーケティングコンサルタントとして、中小企業から大手製造業まで幅広い企業のクライアントを担当。技術の魅力を伝えることにこだわったマーケティング支援を心掛けている。
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