正式発効する欧州保健データスペース「EHDS」で医療機器メーカーが果たす役割:海外医療技術トレンド(116)(4/4 ページ)
本連載第70回から欧州連合(EU)の欧州保健データスペース(EHDS)構想を取り上げてきたが、ようやく正式に発効することが決まった。
ポーランドでTEHDAS2ステークホルダーフォーラム2025を開催
2025年1月30日、TEHDAS2は、ポーランドのワルシャワで「TEHDAS2ステークホルダーフォーラム2025」を開催した(関連情報)。同フォーラムは、EU研究開発プログラム「ホライズンヨーロッパ」のHealth-NCP-Net (HNN 3.0、関連情報)が、ポーランド保健省、ポーランド医師・歯科医師会、欧州がんオープンサイエンスクラウド(EOSC4Cancer)、EITヘルスと協力して開催した「欧州ヘルスデータ&イノベーションサミット」(関連情報)の一部として企画されたものである。
同フォーラムでの欧州委員会保健・食品安全総局(DG Sante)の説明によると、2025年1月30日時点で、以下のようなEHDSのタイムラインを想定している。
- EHDS正式発効後4年目:
- 1次利用:優先カテゴリー第1グループ(患者サマリー、電子処方せん、調剤)の交換
- EHRシステム:優先カテゴリー第1グループについて法令を順守した製品のみの販売
- 2次利用:一般的な2次利用
- EHDS正式発効後6年目:
- 1次利用:優先カテゴリー第2グループ(イメージング、医療検査結果、退院記録)の交換
- EHRシステム:優先カテゴリー第2グループについて法令を順守した製品のみの販売
- 2次利用:選択されたカテゴリー(ゲノム、オミックス、ウェルネスアプリケーション)
- EHDS正式発効後10年目:
- 2次利用:接続(第三国)
上記のタイムラインと関係が深いeヘルス技術インフラが、テクノロジー・トランスフォーメーション・デジタルサービス・インフラストラクチャ(eHDSI)およびそれを利用した電子越境保健医療サービスの「MyHealth@EU」である(関連情報)。現時点でMyHealth@EUは、上記の優先カテゴリー第1グループ(患者サマリー、電子処方せん、調剤)をカバーするEU域内の越境サービスを提供しており、長期的には、優先カテゴリー第2グループ(イメージング、医療検査結果、退院記録)に拡張する計画である。
またTEHDAS2は、今回のフォーラムに合わせて、以下の4つのガイドライン/技術仕様書草案を公開し、パブリックコメントの募集を行っている(募集期間:2025年1月20日〜2月28日、関連情報)。
- M5.1:データ記述に関するデータホルダー向けガイドライン草案
EHDSをサポートするメタデータ標準規格「HealthDCAT-AP」に関するガイドライン草案 - M5.3:国家のメタデータカタログに関する仕様書草案
国家のデータセットカタログを越えて相互運用性を達成するために加盟国が必要な最小限のケーパビリティーセットを定義する仕様書草案 - M6.2:データのアクセスおよびリクエストのグッドアプリケーションプラクティスに関するデータユーザー向けガイドライン草案
EHDS規則に基づく保健医療データへのアクセスまたはリクエストについて申請プロセスを探索するデータユーザー向けガイドライン草案 - M7.1:セキュア処理環境におけるデータ利用法に関するデータユーザー向けガイドライン草案
EHDSに基づきセキュア処理環境(SPE)で保健医療データを取り扱うためのデータユーザー向けガイドライン草案
なお、個人/非個人電子保健医療データの再利用に関するガイドライン草案や、データの最小化/非識別化、仮名化、共通ITインフラに関する技術仕様書草案などについては、2025年9〜10月をめどに公開し、パブリックコメントを募集する予定である。本連載第93回や第115回で取り上げた、データ保護エンジニアリング/プライバシー強化技術(PET)に取り組むディープテック企業が、技術仕様に対応してどのようなソリューションを提案していくかが注目される。
筆者プロフィール
笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)
宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所、グロバルヘルスイニシャチブ(GHI)等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。
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