パナソニックGのAI関連売上30%のカギを握るブルーヨンダー、その戦略とは:CES 2025(2/2 ページ)
コロナ禍以降、サプライチェーンマネジメントにも新たな風が起こりつつある。AIエージェント機能などを取り入れようと開発を進めるブルーヨンダーの取り組みについて、同社 EVP兼Chief Strategy Officerのウェイン・ユーシー氏に話を聞いた。
ブルーヨンダーの変革への取り組み
MONOist ブルーヨンダーは現在SaaSベースの統合スイートとなる次世代プラットフォームの開発や、体制の強化など、3カ年かけてさまざまな変革を進めていますが、過去の仕組みから新しい仕組みに組み替える際に、難しさはありますか。
ユーシー氏 ブルーヨンダーでは現在3年間のトランスフォーメーションを推進しており、その中でプラットフォームの開発や組織の改革などに取り組んでいる。プラットフォームについては、カスタマーベースで新しい基準で作り替えているところだ。サプライチェーン全体を最適化する形で、生成AIやAIエージェント機能などを盛り込み、組織としてより早い判断を行えるようにする。
AI関連技術は、今後のSCMにおいて間違いなくカギを握る。AIを活用することによって、従来バラバラでうまく生かされてこなかったナレッジやデータを、簡単に整理して活用できるようになる。プラットフォーム統合を加速すると考えている。さらに、人手でさまざまなデータを探しに行かなくてもAIエージェントなどで問い合わせると全社で最適化されたデータや、データパスが示され、判断に必要な情報を簡単に集めることができる。従来に比べデータ回りの負荷が大きく低減でき、SCM担当者が最適に判断しアクションできるようになる。
また、体制的には産業ドメインごとの組織体制に変え、それぞれに産業のエキスパートを配置し、そのノウハウなどを生かせるように変革を進めているところだ。今後SCMプラットフォームにさまざまな情報が統合され、1つのソースのデータをあらゆる領域に生かせるようになってくる。その活用のハードルを下げるという意味でAIエージェントが重要になるが、データや知見をどう使用して効果を生み出すかについては、産業ごとのノウハウが必要になると考えている。2024年3月に買収を発表した米国One Networkが産業ごとの体制を構築しうまくいっていたため、それをブルーヨンダー全体で生かしている。今次々に変革を進めているところだ。
MONOist 環境関連の情報をSCMシステムで把握するような動きも強まっていますが、サステナビリティは新たなSCMプラットフォームを活用する動機として大きな位置付けだと捉えていますか。
ユーシー氏 世界的な環境関連規制の強まりにより、カーボンフットプリントの管理なども広がっている。化学/素材産業では特にサステナビリティへの取り組みが進んでおり、ブルーヨンダーでもこれらを把握するような仕組みを取り入れている。さらに、カーボンフットプリントをより下げるため、部品調達やロジスティクスの運用面で最適化する提案などの機能も取り入れている。ブルーヨンダー内でも環境関連規制の専門家が入り、これらの規制への対応をサービスにどう組み込むかについて、機能開発を進めているところだ。資源循環についても、どこにどういう資源があるかを把握し、活用できるようにする機能をM&Aなどを通じて強化しており、環境関連の取り組みは1つの大きな追い風になると考えている。
日本の現場力を生かしたSCM変革が可能に
MONOist サプライチェーンの体制について、日本の製造業の現状をどう見ていますか。
ユーシー氏 日本の製造業は他の国々と異なり、現場が強いという文化がある。そのため、従来はマネジメント層が積極的に変革を促さなくても、高い競争力をボトムアップで生み出してきた。しかし、現在のように変化の動きが激しく、さらにさまざまな部門や業務に幅広く影響が生まれる状況になると、現場の人材に全てをゆだねるのは難しく、サイロを打破し、サプライチェーン全体で一元化された情報を自由に扱えるようになることが望ましいのは明らかだ。
こうした従来の範囲にとどまらないSCMの変革については、日本の取り組みは遅れているといえる。サステナビリティ関連の規制対応により欧州で特に早く進んでおり、次いで米国の企業が対応を進めているところだ。日本でも、現場力を生かしつつも、こうした動きに対してはある程度はトップダウンで対応し、現場を助けられる基盤整備が必要になると見ている。
プラットフォームというと固定化されて、既存業務と合わせにくいように見えるかもしれないが、現在ブルーヨンダーで構築しているSaaSベースのプラットフォームは、プロセスを既存のオペレーションに合わせて構築することも可能で、現場の今の業務をすぐに支えられる一方、情報のサイロ化を解消し、さらにAIなどの新たな機能を取り込むことができる。ようやく日本の現場力を生かしたSCMプラットフォームの活用ができるようになったといえる。SCM変革に取り組むのは今だと強く訴えたい。
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