SDVは日本の車載ソフトウェア開発の慣習を変えるチャンスになる:SDVフロントライン(3/3 ページ)
100年に一度の変革期にさらされている日本の自動車業界が厳しい競争を勝ち抜くための原動力になると見られているのがSDVだ。本連載では、自動車産業においてSDVを推進するキーパーソンのインタビューを掲載していく。第2回は、車載ソフトウェア標準化団体であるAUTOSARの日本地域代表を務める後藤正博氏に話を聞いた。
AUTOSARの日本における活動の軸になるのはJASPARとの連携
MONOist AUTOSARの活動にSDVはどのような影響を与えているのでしょうか。
後藤氏 AUTOSARは、SDV時代になってもECUに搭載するBSW(Basic Software)やミドルウェアの開発のやり方を標準化するという活動内容に変わりはない。例えば、並列コンピューティングの割り当てなどはやらない。これは実装の問題であって、並列計算の標準化を行っているKhronosグループの技術を使うなどの対応になる。AUTOSARが定めるのは要件とソフトウェア仕様であって、どんなハードウェアやツールでそれらを実現するのかは各社の競争領域になる。日本でありがちな、目の前にあるハードウェアやアーキテクチャの性能を極限まで引き出すとかいう発想ではない。そういった実装の話は、時間が解決してくれるという考え方で一致している。
SDVは日本の車載ソフトウェア開発の慣習を変えるチャンスにもなる。変えなければ安心ではなく、変えることでどうやって安心を確保するか。車両内の各機能を複数のゾーンに分けてセントラルコンピュータと連携するゾーナルアーキテクチャがその解決手法の一つになるだろう。SDVはスマートフォンと比較されることが多いが、ハードウェアを確認しなければ機能を実現できない点で大きく異なる。クルマのユーザーが何を望んでいるのか、ユーザーの困りごとをどう吸い上げて解決するのか。AUTOSARはそれらを可能にする足回りとして活用できるはずだ。
MONOist SDV関連で他団体とどのように連携していますか。
後藤氏 AUTOSAR、COVESA、Eclipse SDV、SOAFEE(Scalable Open Architecture for Embedded Edge)で2023年冬にSDV Allianceを立ち上げた。現時点でSDV Allianceとして明確な成果はないが、各団体がSDVを軸にどのような貢献ができるかを明確にしていくという役割がある。新たな団体の参加もOKというスタンスなので、今後活動は広がっていくかもしれない。
日本では、JASPARがAUTOSARのAttendeeになったので、JASPARの会員であればAUTOSARのWG活動に参加できるようになった。AUTOSARとして日本での活動の軸になるのはやはりJASPARとの連携であり、JASPARから積極的に動いた結果を打ち込んできてもらえるとありがたい。
名古屋大学の高田先生(大学院情報学研究科 附属組込みシステム研究センター 教授の高田広章氏)が座長を務めるOpen SDV Initiativeの活動は、車両外とデータのやりとりをするAPIを策定するという意味では、AUTOSARのAutomotive APIとコンセプトは同じだろう。JASPARも自動車用API共通化WGを設立しているので、情報共有を図りながら互いの活動が無駄にならないようにしたい。
MONOist AUTOSARとしてSDV時代をどのように捉えていますか。
後藤氏 自動車にとってソフトウェア技術がとても大事になっている。車載ソフトウェアの標準化団体としてAUTOSARの存在感がこれだけ大きくなっている以上、新しいソフトウェアの技術やメソドロジーをどう取り込んでいくかは、ミニマムな目標としてやっていかなければならないと思う。それに加えて、現在標準化の対象になっているCPやAP、FO以外に領域を広げていくかどうかが大きな課題になっている。
AUTOSARはアーキテクチャとプロセスを定義する団体だが、日本ではBSWを供給するベンダーのように受け取られているように感じることも多い。また、AUTOSARが決めた定義に従っていればいいという意見もよく聞かれる。Japan Hubの活動では、AUTOSARに対するそういった見方を少しずつでも変えられるよう、教育などに関連する活動に力を入れていきたいと考えている。
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