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SDV実現の鍵となる車載イーサネットへの対応はどこまで進んでいるのか人とくるまのテクノロジー展2024レポート(1/3 ページ)

SDV(ソフトウェア定義自動車)の実現の鍵になるとみられているのが車載イーサネットである。本稿では、「人とくるまのテクノロジー展2024 YOKOHAMA」で半導体メーカーや電子部品メーカーなどが展示した、車載イーサネットを中心とする最新の車載ネットワーク関連ソリューションを紹介する。

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 クルマの中でやりとりされるデータ量の増加や、SDV(ソフトウェア定義自動車)の実現に向けたアーキテクチャの見直しを背景に、車載ネットワークが大きく変わろうとしている。その鍵になっているのがPCやサーバのネットワーク接続に広く利用されてきたイーサネットを、車載の要件に合わせて規格化した車載イーサネットである。

 本稿では、「人とくるまのテクノロジー展2024 YOKOHAMA」(2024年5月22日〜24日、パシフィコ横浜)で半導体メーカーや電子部品メーカーなどが展示した、車載イーサネットを中心とする最新の車載ネットワーク関連ソリューションを紹介する。

アナログ・デバイセズ

 アナログ・デバイセズは、センサーやアクチュエータなどのエッジデバイスを10BASE-T1Sに効率的に接続する「E2B(Ethernet to the Edge Bus)」を展示した。

 10BASE-T1Sは車載イーサネットの新規格で、正式な名称は「IEEE 802.3cg」である。転送レートは10Mbps、トポロジーは1対1またはマルチドロップに対応し、非シールドの安価なツイストペアケーブルが使えるのが特徴だ。ただし、MAC(メディアアクセス制御)レイヤー以上は通常のイーサネットと基本的に同じであり、その実装にはTCP/IPなどのプロトコルを処理するためのソフトウェアスタックとマイコンが必要である。

 E2Bは、SPI、I2C、LIN、UART、PWM、GPIOなどのインタフェースを内蔵し、センサーやアクチュエータなどのエッジデバイスをソフトウェアスタックとマイコンなしで直結できるようにしたソリューションである。同社によると、既にBMWが採用を表明している他15社以上の自動車メーカーが検討中で、2025年ごろに最初の量産車に搭載される見込みだという。

「E2B」をライティングに応用したデモシステム
「E2B」をライティングに応用したデモシステム。E2Bデバイスを搭載したコントローラー基板(写真内左側)から、10BASE-T1Sを介して、2万ピクセルのマイクロLEDアレイ(同右側)を制御し、床面に画像を投影していた。中央に見える非シールドのツイストペアケーブルの長さは15m[クリックで拡大]
こちらも「E2B」のデモシステム
こちらも「E2B」のデモシステム。タッチパネルの上に置いた金属球が常に中央にとどまるように、コントローラーから10BASE-T1Sを介して4カ所のモーターをリアルタイムかつ同期的に制御して、パネルの水平を維持している[クリックで拡大]

 オーディオデータの伝送を効率化する「A2B(Automotive Audio Bus)」も展示した。逆相の音を出して聴覚上のロードノイズを抑制するアクティブノイズキャンセリング、前部座席と後部座席の会話をスムーズにするインカーコミュニケーションシステム、欧州で新車搭載が義務化されたeCall(緊急通報)システムなどへの応用を想定している。

 軽量かつ安価な非シールドのツイストペアケーブルで32チャネルの音声を伝送できる。遅延が小さく、かつ、確定的であり、厳密な位相制御が必要なアクティブノイズキャンセリングにも適用しやすい。また、最大50Wの電源をスレーブデバイスに供給することもできる。A2Bはフォード(Ford Motor)などの市販車に搭載されている。

「A2B」のデモ
「A2B」のデモ。メイン基板(写真内左側)からサブ基板に対してステレオオーディオ信号を送出するとともに、サブ基板からマイク入力や加速度センサーのデータをメイン基板に送出している。軽量な非シールドツイストペアケーブルを使うため、アナログ信号に比べてハーネスを大幅に削減できる[クリックで拡大]

東芝デバイス&ストレージ

 東芝は車載イーサネット用のブリッジIC「TC956xファミリー」を展示した。Ethernet AVB(以下、AVB)のみをサポートする品種と、Ethernet AVBとEthernet TSN(以下、TSN)の両方をサポートする品種を展開する。

 AVBは、オーディオやビデオなどのストリーミング信号の伝送に対応した規格で、経由するスイッチの段数に当たるホップ数が7つの場合でも遅延が2msと小さい。一方、TSN(Time Sensitive Networking)は、AVBの帯域制御機能や低遅延性をさらに高めた規格であり、リアルタイム性が求められる産業用途を中心に採用が進んでいる。

 これらの規格をサポートするTC956xファミリーの転送レートは1Gbpsで、10Gbps品も開発中とのことであった。上位のアプリケーションプロセッサと接続するホストインタフェースにはPCIe(Gen2.0)を採用(HSIC対応品もある)。加えて、オーディオデバイスの接続用に4系統のI2S/TDMインタフェースを備えており、アプリケーションプロセッサを介さずにチューナーやBluetoothモジュール、eCallモジュールなどを接続できる。

 TC956xは欧州メーカーでの採用が決まっている他、低遅延性を求める産業系からの引き合いも増えているという。

高音質車載オーディオシステムのデモ
アクリルケース内の基板上の「TC9563」をトーカーとして、写真内左側にある2枚の基板上の「TC9562」をリスナーとして用いた、高音質車載オーディオシステムのデモ。その他、電子ミラー、デジタルコックピット、カメラ映像、テレマティクス信号の伝送などを想定しているという[クリックで拡大]

 デンソーを中心に開発された日本発の車載ネットワーク規格であるCXPI(Clock Extension Peripheral Interface)用のドライバー/レシーバーIC「TB9032FNG」も展示した。

 CXPIは、機器やスイッチなどを1対1でつなぐいわゆる「ジカ線」を集約することでハーネス類の削減を目的に開発された。一般的には、CANの応答性とLINの低コスト性を兼ね備えたインタフェースといわれている。適用対象は主にボディー系システムである。ビットレートは2.4k〜20kbps、供給電圧は7〜18Vと広く、ニーズに応じた設計が可能だ。

 TB9032FNGはCXPIの物理層に相当するインタフェースICで、コマンダーノードとレスポンダーノードの両方に適用できる。サンプル出荷中であり、2024年12月に量産を開始する予定である。

CXPI対応のドライバー/レシーバーIC「TB9032FNG」
CXPI対応のドライバー/レシーバーIC「TB9032FNG」。写真内右側がコマンダーノード、同左側がレスポンダーノード。信号の立ち上がりエッジをわざと緩やかにしてEMIノイズの発生を抑えている[クリックで拡大]

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