AIが新たなエンジニアリングを形作る、2025年に注目すべき4つのトレンド:AI基礎解説(3/3 ページ)
AIはエンジニアリングのパラダイムを再構築する上で重要な役割を果たしている。本稿では、新たなエンジニアリングを形作ることに貢献するであろう、2025年に注目すべき4つのAIトレンドを取り上げる。
トレンド4:AIが複雑なシステム制御の障壁を打破
AIが制御設計に継続的に統合されることで、特に複雑なシステムや組み込みアプリケーションの管理において、この分野は変革を遂げるでしょう。従来、制御システムの設計は、システムに関する深い知識と理解を必要とする第一原理モデリングに依存していました。データ駆動型モデリングは、主に設計範囲のごく一部でのみ有効な線形モデルに限定されていました。AIがデータから正確な非線形モデルを作成できるようにすることで、この状況を変革しています。これにより、第一原理とデータを組み合わせ、動作範囲全体にわたって有効かつ正確なモデルの作成が可能になります。この進歩により、複雑なシステムのより優れた制御が可能になります。
同時に、マイクロコントローラーの計算能力の向上により、AIアルゴリズムをシステムに直接組み込むことが容易になっています。この統合は、応答性の高いシステムが標準になりつつある家電製品や自動車業界で特に大きな影響力を持っています。例えば、安全上のリスクを引き起こす可能性のある急激な材料密度の変化など、環境の変化を監視して対応するためにAIが電動工具に組み込まれています。これらのツールは、組み込みAIを用いて動作を自律的に調整し、安全性とパフォーマンスを向上させます。
AIを複雑なシステム制御と組み込みシステムに統合することで、より堅牢で適応性に優れたインテリジェントな制御設計の時代が到来します。エンジニアは、リアルタイムで学習して適応するシステムを構築できるようになり、これまでにない精度と効率性を実現できるようになりました。AI主導のソリューションによって従来の制御問題に対処する環境が生まれ、さまざまなエンジニアリング領域にわたる、よりスマートで統合されたシステムへの道が開かれます。
エンジニアは、AIの継続的な成熟と進歩に期待するべきでしょう。物理学の知見とAIモデルを融合することで、透明性と適応性が向上し、従来のアプローチの「ブラックボックス」問題が緩和されます。AIツールの民主化により、エンジニアは高度な機能に簡単にアクセスできるようになります。これらの進歩により、エンジニアリングにおけるAIの役割が高まり、技術専門家はより優れたエンジニアリングシステムをより迅速かつ効果的に構築できるようになります。
筆者プロフィール
井上 道雄(いのうえ みちお) MathWorks Japan アプリケーションエンジニアリング部 シニアチームリード
数値流体力学(LES)を専門に学位取得。NASA/JPLで乱流モデルを地球大気のシミュレーションに応用する研究に従事。2014年にMathWorks Japanに入社後は数値計算、データ解析を担当し機械学習を応用した異常検知、予知保全をメインに活動。MathWorks公式ブロガー。
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