RAG普及で加速する製造業のナレッジ活用 技術継承への貢献にも期待:MONOist 2025年展望(2/3 ページ)
他業種同様、製造業でもRAGの普及が加速している。本記事ではRAGを活用した具体的な事例やサービスなどを参照しつつ、2025年以降にどのような分野での活用が期待されるかや、今後の課題は何かなどざっくりと考えていきたい。
技術継承分野での活用拡大に期待
このようにRAGは、社内に膨大に蓄積されている各種ドキュメントやナレッジの効率よい検索を実現する。さまざまな用途で注目されているが、その中でも2025年以降、さらに適用の期待度が高まるのではないかと思われる分野を1つ取り上げたい。それは技術継承問題だ。
周知の通り、技術継承は製造業が直面する最も大きな課題の1つだ。高齢化によるベテランの退職が避けられない中で、生産や設計、設備保全などの現場で培われたスキルや知見を、迅速かつ十全に若手へと継承していくことが求められている。
しかも日本全体の人口減少に伴い、将来的に働き手の増加は見込みづらい。このため、業務の自動化や高度化の試みと並行しつつ、若手がベテランの知見を効率的に習得、活用できるように支援し、業務生産性を高めていく仕組みも必要だ。
生成AIはこうした課題解決に貢献する可能性がある。例えば、NECは2024年6月に、PLM「Obbligato」と連携して、トラブル発生時の作業者からの問い合わせに対して、LLM(大規模言語モデル)とRAGを活用することで過去のノウハウを基に応答するシステムを発表した。ベテラン技術者のナレッジを構造化するデータモデルのテンプレートなどを用いて、高精度で回答できる仕組みを実現している。
東京大学 教授である松尾豊氏の研究所の創業支援を受けた「松尾研発スタートアップ」の1社であるエムニも、ChatGPTを活用し、ベテラン技術者が持つ暗黙知の言語化、つまり形式知化を支援するツールの開発に取り組む。ChatGPTがベテラン技術者にインタビューを繰り返して行い、重要な知見を抽出、データベースに蓄積していくという仕組みだ。若手技術者は現場トラブルに直面した際に、データベースを参照してChatGPTが作成した解決策を基に対応することができるようになる。
実際にこうした仕組みの導入に挑戦している製造業もある。ライオンは2024年6月、NTTデータと共同で、衣料用粉末洗剤の製造プロセス開発におけるベテラン技術者の暗黙知を生成AIで形式知化する取り組みを開始すると発表した。暗黙知を「勘所集」として文書化した上で、開発メンバーがアクセスできる「知識伝承AIシステム」に取り込み、必要に応じて検索できるようにする。
関連して、直接的な活用事例ではないが、ストックマークのLLM「Stockmark-LLM-100b」にパナソニックHDが同社内のデータを追加事前学習させた1000億パラメーター規模のLLM「Panasonic-LLM-100b」についても紹介したい。パナソニック HD テクノロジー本部 デジタル・AI技術センター 所長の九津見洋氏はこのLLMの用途について、「内部の業務マニュアルなどに代替する支援などを想定している。自然言語での問いかけに対し、Q&Aで最適解を提案するような仕組みで、設計での若手技術者の支援やノウハウの継承などでの活用を期待している」と説明している。
暗黙知を形式知化していくプロセス、また蓄積された数々のナレッジを効率的に検索するためのインタフェース。この2点のいずれにおいても、生成AIは非常に大きな役割を果たせるものと思われる。特に後者に関して、2025年はRAGのような検索技術の実用化が進んでいくだろう。
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