生産現場が注目する「生成AI×オンプレ」の未来 何が導入障壁になり得るか:製造業×生成AI インタビュー(1/3 ページ)
現在、生産現場における生成AI活用では、オンプレミス環境下でのAIモデル運用に注目が集まっている。ただ、クラウド経由で生成AIサービスを利用する場合と異なり、オンプレミス環境ではさまざまな制約条件がある。これらを乗り越え、どのように実装を進めていくべきか。エムニの下野祐太氏に話を聞いた。
バックオフィス業務への生成AI導入は製造業でも進んできた。一方、生産現場への導入となると、その取り組みはまだまだ限定的だ。だが、いずれは生産現場で生成AIを活用することが本格化するフェーズが来るだろう。出遅れて市場での自社の競争力を損なわないようにするためにも、今の時点から「将来、自社の生産現場で生成AIがどう動くことになるのか」「どう役立ち得るのか」をある程度イメージしておくことが大切ではないか。
特に生産現場の場合は、生産実績や生産計画、設計図面、各種帳票など外に公開できないデータが多く蓄積されている。これらを生成AIで活用できれば、現場の強力な支援ツールが誕生し得る。
しかし、生産現場がクラウド経由で生成AIモデルを利用するのは、さまざまな制約条件から難しい。これを踏まえて「ファインチューニングを施した小規模な生成AIモデルを、オンプレミス環境で動かす試みが活発化するのでないか」と見通しを語るのが、エムニ 代表取締役CEOの下野祐太氏だ。生産現場における生成AI活用の技術的展望や、生み出し得る価値について話を聞いた。
製造業特化の「松尾研発」スタートアップ
エムニは2023年10月に創業したAIスタートアップで、東京大学 教授の松尾豊氏の研究所の創業支援を受けた「松尾研発スタートアップ」の1社である。下野氏は、創業以前から松尾研究所で3年間にわたり、化学プラントメーカー向けの生産計画や異常検知に関わるAIの実装に携わるなど、製造業を対象としたプロジェクト経験を持つ。また下野氏は、京都大学で博士号を取得していることから「松尾研発スタートアップでは唯一の京都大学発スタートアップ」(下野氏)といえる。
現在、エムニは主に製造業への生成AI実装に関わるプロジェクトの支援を行っている。顧客の問題設定に合わせて、最適なデータ環境の構成やAIのアルゴリズムを提案し、実際のシステム開発まで支援する。アカデミアのバックグラウンドがあることから、「最先端の技術開発力をプロジェクトの実装に生かせるのも強みだ」(水野氏)としている。なお現時点では、顧客の企業規模は売り上げが1000億円以上の企業の支援が主となっている。
小規模モデルの精度をいかに高めるか
製造業でも他業界と同様、バックオフィス業務への生成AI導入の取り組みは進みつつある。しかし、生産現場での導入に関しては「一部企業を除いてまだまだ進んでいない」(下野氏)状況だ。
その理由として大きいのが、セキュリティ上の懸念だ。社内向けのドキュメントや設計書など、機密性の高い工場内のデータが外部に漏えいするリスクへの警戒が強い。クラウド経由のAPI接続で利用する形式をとることは難しい。このため、生成AIのリスクを懸念する製造業は、工場内のネットワーク内でデータのやりとりが完結するように、オンプレミスのサーバ上での生成AIモデル運用の可能性に期待を寄せ始めている。実際にエムニにもそうした問い合わせが良く寄せられるという。
しかしクラウドと異なり、オンプレミスで生成AIを利用する場合、幾つか導入障壁となり得る要素が存在する。まず、生成AIに求める精度と現実的に導入可能なモデルサイズの間でどのようにバランスを取るべきか、という問題だ。一般的に、生成AIのパラメーターサイズは大きいほど性能が高まるとされている。しかし、それに伴い大規模なGPUなどのインフラ構築が必要になるため、コストを考えると無尽蔵に規模を追い求めるわけにはいかない。
「そこまで大きなサイズでなければ、100〜200百万円程度のPCがあれば十分動かせる。しかし、数千万円単位のインフラ整備が必要だ。現実的に考えると、オンプレミスでの運用では、小規模な生成AIモデルの精度をいかに高めていくかという技術的工夫が求められるだろう」(下野氏)
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