MS-DOSに敗れしCP/Mの落とし子「Real/32」はRTOSとして生き抜いた:リアルタイムOS列伝(53)(3/3 ページ)
IoT(モノのインターネット)市場が拡大する中で、エッジ側の機器制御で重要な役割を果たすことが期待されているリアルタイムOS(RTOS)について解説する本連載。第53回は、CP/Mで知られるDigital ResearchのDOSを源流とする「Real/32」を紹介する。
最後に残ったIMSが後継の「Real/NG」の開発に着手するも……
さて最後に残ったIMSが、ここまで引っ張った今回のお題であるReal/32の開発元である。当初IMSはConcurrent DOS-386を単にReal/32に改称して販売していたが、そこからどんどん機能を追加し始める。
割と最後の方のバージョンになるReal/32 V7.91では、以下のような特徴を備えていた。
- マルチタスク/マルチユーザー環境に対応。ちなみにマルチユーザーは、画面/キーボードを利用するユーザー以外にシリアルポート経由で最大2ユーザーをサポートした
- 標準のVGA/SVGA以外に、Maxpeed VGA/SVGA Graphics Terminalを接続してマルチスクリーンのグラフィックス描画に対応
- DOS互換の16ビットアプリケーションとWindows 3.1互換の32ビットアプリケーションの両方に対応。これに伴い32ビットアプリケーション向けにはDPMI(DOS Protected Mode Interface)を提供
- 48ビットLBAとFAT32への対応
- CD-ROMおよび4台までのディスクに対応
- IDE経由でLS120やZIP Driveをサポート
- PCI Parallel Portを3つまでサポート
- TCP/IPスタックを搭載し、Webサーバの稼働も可能
それこそマルチスクリーンのPOS端末などを構築するのには非常に便利な構成になっていた。先の例で示したIBMも、FlexOSからこのReal/32に乗り換えているほどだ。これをリアルタイムOS(RTOS)と呼ぶのはどうか? と思われる向きもあろうが、Response Timeが秒単位でも許容される、緩いリアルタイム性を持つOSという意味では間違いなくRTOSであった。
IMSはまた、このReal/32に対応したパートナーも獲得していた。Logan Industries(https://loganindinc.com/は同名の別会社)やMaxFrame、MAZE Technologyなどが、Real/32の再販やReal/32向けのソフトウェアの提供、Real/32を利用したシステムの構築などを請け負っていた。
Real/32は有償の製品ではあるが、例えば2010年秋の価格表(Webアーカイブを参照)を見ると、100ユーザーのReal/32の価格は649ポンド、当時の価格レートで換算すると8万7615円ほどで、1ユーザー当たり900円弱だった。これは組み込みシステム向けに十分許容できる価格だったと思われる。
IMSはさらにこれを発展させた「Real/NG」の開発にも着手する。こちらはRedHat 7.3などと共存でき、Real/32との後方互換性も維持しながら、マルチプロセッサのサポートまで持たせたという意欲的なもの(Webアーカイブを参照)だったのだが、残念ながらこちらが充実する前に会社が立ち行かなくなった。IMSは2002年4月に破産を申請、IMSの顧客だったITERAがIMSの全資産を買収し、引き続き事業が継続された。
しかしながらそのITERAも2006年3月に解散。Real/32はその後英国のIntegrated Solutionsから供給された(先程の価格表はこのIntegrated Solutionsから提供されていたもの)が、いつの間にか同社はコンピュータビジネスから撤退してしまった。Real/32関連のWebサイトが2012年まで維持されていたことを考えると、多分このあたりでReal/32の供給やサポートは終わったものと思われる。
これに先立ち、FlexOSを継承したISIは2000年2月、Wind River Systemsに買収され、その後FlexOSの供給そのものが消えてしまった。Digital ResearchのDOSベースのRTOSは、このReal/32を最後に途絶えたというわけだ。
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