イチから全部作ってみよう(14)異常系を組み込んだら仕様書が膨れ上がった!:山浦恒央の“くみこみ”な話(183)(3/3 ページ)
ECサイトを題材にソフトウェア開発の全工程を学ぶ新シリーズ「イチから全部作ってみよう」がスタート。シリーズ第14回は、第12回と第13回で検討した異常系を、第11回で作成したたこ焼き屋の模擬店の要求仕様書に組み込んでみる。
5.7 食材準備係
たこ焼き屋の出店に必要な食材を確保する。
5.7.1 食材の選定
たこ焼きに必要な食材を選定する。
食材候補を表1に示す。
食材 | 必要量 |
---|---|
たこ(必須) | 3kg |
たこ焼き粉(必須) | 5kg |
水(必須) | 10リットル(学校で用意) |
卵 | 200個 |
サラダ油(必須) | 1ボトル(1リットル) |
たこ焼きソース(必須) | 10ボトル |
青のり | 12パック |
かつお節 | 60パック |
マヨネーズ | 4ボトル |
表1 たこ焼き模擬店の食材候補 |
「必須」の食材を確保できない場合、下記のフローに従って出店可否を検討する。
- (1)予算が余っていれば下記を検討する
- (2)機材/備品がない場合は、スーパー、ホームセンター、部員の持ち物、別の模擬店から調達する
- (3)たこ焼きが提供できる食材がない場合は、下記の提供品にできないか検討する
- お好み焼き
- ベビーカステラ
- (4)上記から出店が困難と判断した場合は、出店を取りやめる
5.7.2 食材の調達/管理
選定した食材を調達する。調達した食材は、冷蔵庫に入れ、衛生面を確保する。確保できない場合は出店を中止する。
- (1)封が閉じてあり、衛生が確保できているもので、部員の希望があるものは、持ち帰らせる
- (2)それ以外は、全て捨てる
5.7.3 ゴミ捨て
- (1)委員会と確認し、ごみが捨てられるか再度確認する
- (2)捨てられなければ、ビニール袋を購入して、小分けにして部員に持ち帰ってもらう
- (3)清掃不足があれば、部長が最終チェックを行い、不足があれば、再度清掃をする
5.8 料理係
たこ焼き作成作業を行う。
5.8.1 たこ焼き作成
たこ焼きの調理法の手順書を作成する。
(1)準備
- たこ焼き粉を1kg、ボウルに入れ、水を少しずつ加えながら(水の総量は2リットル)、よく混ぜる
- 卵を4個加え、さらによく混ぜる(120秒)
(2)たこ焼きの準備
- たこ焼き器をあらかじめ60℃に熱する
- 温まったら、各穴にサラダ油を適量(1cc)塗る
(3)生地を流し込む
- たこ焼き器の各穴に生地を流し込む(穴から5〜10ccあふれる程度)
- たこを1つの穴に対し1個入れる
(4)焼く
- 3分30秒経過したら、竹串やピックで周囲の生地を持ち上げ、90度回転する
- これを5回繰り返し、全体が均一に焼けるように丸いたこ焼きを作成する
(5)仕上げ
- たこ焼きが黄金色に焼けたらプレートに取り出し、たこ焼きソース(1個につき2cc)、青のり(1個につき0.1g)、かつお節(1個につき0.1g)、マヨネーズ(1個につき1g)をかけて完成となる
(6)チェック
- 正常に焼けなかった場合は、廃棄する
5.8.2 試食会の実施
試食会を行い、提供するたこ焼きを決定する。
5.9 会計係
たこ焼き屋の出店に必要なお金の管理を行う。
5.9.1 お金の管理
各係からお金の依頼が来た場合は、手配する。その際は、ノートに記載し管理できるようにする。お金が足りない場合は、釣銭として準備したお金から供出する。
5.9.2 領収書の回収
支出したお金の領収書をまとめる。領収書がない場合は、自腹になることをきちんと周知する。
5.9.3 代金の徴収
お客からたこ焼きの料金を徴収し、必要であればお釣りを渡す。釣銭切れを起こさないように8万円分の1000円札、3万円分の100円玉を準備する。
5.9.4 釣銭切れの場合
釣銭切れの場合は、下記に従って対処する。
- (1)釣銭切れでピッタリ払うように伝える
- (2)ピッタリ払えない場合は、部員のお金で建て替えて両替をする。部員のお金がない場合は、購入できないと伝える
5.9.5 会計報告
文化祭終了時に、収入、支出、レシートをまとめて会計報告を文化委員に行う。
5.10 PR係
たこ焼き屋のPRを行い、集客業務を行う。
5.10.1 メニュー表・看板の作成
提供するたこ焼きの価格をまとめたメニュー表、看板を記述する。
5.10.2 集客
学校内を回り、たこ焼き屋の場所とPRを行う。
6.おわりに
今回は、前回の連載第182回で作成した異常系を、連載第180回で作成した仕様書に反映しました。文化祭の模擬店だと思って仕様を書き始めましたが、異常系まで考えると、3000字、230行程度(筆者の想像以上)のボリュームに膨れ上がってしまいました。人間の「臨機応変」がいかに偉大か痛感します。
筆者の経験では、設計フェーズでは、内容が具体的になるため10倍の200〜300行、コーディングではさらに細かくなるため、10倍の2000〜3000行に膨張すると思われます。ここが、ソフトウェア開発が大変なところです。今回の事例をきっかけに、要求仕様書作成のイメージや、仕様書を書くことの大変さを感じていただければ幸いです。(次回に続く)
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東海大学 大学院 組込み技術研究科 非常勤講師(工学博士)
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