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ダイセル式生産革新から自律型生産システムへ “人”を自律させる仕組み作りとはものづくりDXのプロが聞く(3/4 ページ)

Koto Online編集長の田口紀成氏が、製造業DXの最前線を各企業にインタビューする「ものづくりDXのプロが聞く」。今回は、ダイセルのモノづくり革新センター長であり、「自律型生産システム」を主導した三好史浩氏にお話を伺いました。

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暗黙知を形式知にして標準化を目指し、さらにその先へ

田口氏 予備調査後は、どのように進めていくのでしょうか。

三好氏 0段階での予備調査を行った後、第1段階の「基盤整備/安定化」を行います。安定化をするためにトラブルを徹底的になくしていく。そのためには言語の統一が非常に重要となります。

 工場で使用される言葉は、工場ごと、さらには部門ごとにバラバラなことが多いです。同じ機器を指していても、呼び方がまったく異なります。よってここでは図面に記載する機器ナンバー(タグナンバー)をユニークにし、固有の呼び方ではなくのタグナンバーで呼ぶことに統一します。

 この段階で3S活動を推進するとともに、一定レベルにプラントが安定化するまでトラブル低減を行います。

 そして、第2段階では「標準化」を行います。熟練者の頭の中にあるノウハウを顕在化し誰もが実行できるようにする段階です。顕在化はヒアリングをベースにして手法化しており、総合オペラビリティスタディーと呼んでいます。

 ノウハウを正確にかつ効率的に引き出すにはスキルが必要となりますので、トレーニングを積んで社内で認定を取得した人のみが実施できるようにしています。

 化学プラントは設計に余裕を持たせていたり、リサイクルなど工程が相互に複雑につながり影響し合ったりしています。そのためオペレーターの裁量で品質の作りこみ度合いが変わることもあり、現場ではさまざまな工程を意識しながらプラントをコントロールするための膨大なノウハウがたまっています。

 大切なノウハウは意識していない当たり前なことが多く、そこを引き出して形式知化することが重要になってきます。この総合オペラビリティススタディーはシステム化する際の設計資料としても活用していきます。

 これらの取り組みは現在でも当たり前に行われています。このシステムは2000年にできて、私が入社したのが2007年です。完成度の高いシステムが完成し、その仕組みが出来上がった後に入社したわれわれにとっては仕組みやルールを正確にこなすことが成果になっていました。

 私も生産革新で構築したシステムの維持メンテナンスの担当をしていましたが、本来の目指していた目的は何だったのか? 時間とともに手段が目的化しているのではと問題意識を持っていました。

 最新のテクノロジーを活用し、今の時代においてもっと最適化したいと考えても、完成度の高い仕組みであればあるほど、その設計を崩すことができないんです。私も優れた完璧な仕組みだと思っていますが、それ故に完成された瞬間から手段の目的化という形骸化が始まっているんだと考えました。

田口 イノベーションのジレンマそのものですね。

三好 完成されたシステムとなると維持することにパワーを割くようになり、本来やるべきことにパワーが割けなくなる。標準化したが故に、本当の目的に対する思考力が弱まるのではと危惧していました。

 そのような状況の中、2017年に社長の小河による指示で、社内でプロジェクトを立ち上げました。突然呼ばれて、何でもいいから君の好きなことをやれ、と。まずは小河の知人である東京大学の松尾豊先生(人工知能や深層学習などAI研究における第一人者)に会ってこいと言われました。

田口 乱暴ですね(笑)。

三好 3年の期間は何のアウトプットも求めない。好きなことだけやれと(笑)。実際そのとき、自分たちを軽んじているように感じ、それが悔しく、絶対にアウトプットを出す前提で話を進めていこうと腹をくくっていました。最低1カ月に1度は社長に直接進捗報告とアドバイスをもらいにいきました。

 そして社内で同世代のメンバーを集め、1年かけてコンセプトを考え、2年目にロジック設計、3年目に実証テストまで検討をもっていきました。そこで生まれたのが「自律型生産システム」です。

 これまでの生産革新の取り組みで安全、安定生産は達成してきていましたが、品質を良くするとコストアップになるなど、品質とコストの判断はトレードオフになることが多く、その最適解の計算は演算負荷が高く現場の人の判断に依存させてきた背景がありました。

 そこでピンときたのが形式化したノウハウを活用し、AIで計算しようと。われわれは2000年からデジタル化しているので、20年分のデータがあることも大きな強みとなりますから。

 社長からは3年間はアウトプットを出すな、といわれていましたが「3年後に実装する」と宣言をしていました。早速、工場で実装テストをしました。実装テストの結果、面白いことが分かってきました。

 何かというと、研究により精度は96%に達していましたが、予測が外れ現場から文句が出ました(笑)。

田口 現場からの反発は、あるあるですよね。

「イノベーションのジレンマそのものですね」(Koto Online編集長 田口氏)
「イノベーションのジレンマそのものですね」(Koto Online編集長 田口氏)[クリックで拡大]出所:Koto Online

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