データ/AI活用を阻む影――製造業の生産性を奪う7体の“デジタル怪獣”とは:製造業の生産性を飛躍させるデータ/AI活用の全貌(前編)(2/3 ページ)
製造業の生産性や稼働率を高めるために大きな期待がかけられているのがデータとAIの活用だが、多くの企業でうまくいっていない現状がある。本稿は、前編でデータ/AI活用を阻む“デジタル怪獣”を紹介し、後編ではその退治法となるアプローチや成功事例などを解説する。
“デジタル怪獣”の存在
データ/AI活用を阻む要因として、組織内のブロッカーと呼ばれる存在が浮かび上がってきます。これらは組織内のさまざまな問題から生まれ、データ活用の取り組みを妨げています。ここでは、BCG(ボストン コンサルティング グループ)の論考「チェンジモンスター」になぞらえ、製造業に特有のデータ/AI活用を阻む主なブロッカーを7体の“デジタル怪獣”としてご紹介します。
1.お達しザウルス:経営層からの号令だけ
製造現場では、経営層からのデータ/AI活用推進の指令がしばしば一方的に下されます。しかし、トップダウンのアプローチだけでは現場の理解と協力が得られず、結果としてプロジェクトは形骸化しがちです。例えば、新しい生産管理システムの導入が決定されたものの、現場のオペレーターがその必要性や操作方法を理解していなければ、システムは十分に活用されません。データ/AI活用は全社的な取り組みであり、経営層と現場が一体となって進める必要があります。
2.タコツボリス:部門サイロ化による個別最適化
製造業では、製造、品質管理、物流、営業など多岐にわたる部門が存在します。各部門が独自にデータ/AI活用を進めると、全社的な最適化が図れず、部門間の連携が取れなくなります。例えば、製造部門内でも、類似の設備や装置を扱う複数のチームが存在します。これらのチームがそれぞれ独自に要因分析を実施すると、本来は共有できるデータやアプローチで十分なところを、部門やチームごとにデータを準備し、一から同じ作業を繰り返すことになります。結果として、組織全体で見ると時間とリソースが無駄になり、効率性が低下し、全体としてのデータ/AI活用の効果が薄れてしまいます。
3.マルナゲロン:全部外注任せ
多くの製造企業は、データ/AI活用プロジェクトを外部のコンサルタントやシステムベンダーに全て、またはその多くを委託する傾向があります。しかし、これにより企業内部のノウハウが蓄積されず、持続可能な成長が阻害されます。例えば、システムの開発やデータ分析を外部に依頼するだけでは、自社内でのスキルと知識の構築が進まず、長期的なデータ/AI活用推進が困難になります。外部パートナーとの協力は重要ですが、自社内でのスキルと知識の構築も同時に進める必要があります。
4.ガンバリスト:個々人の頑張り依存
製造現場では、特定のエンジニアやオペレーターが自発的にデータ分析やプロセス改善に取り組むことがあります。しかし、データ/AI活用は組織全体の取り組みであり、個人の頑張りに依存すると持続可能な変革は実現できません。例えば、あるエンジニアが手動でデータを分析して生産ラインの改善提案をしても、組織全体でその取り組みの標準化や支援を行わなければ効果は限定的です。システムやプロセスの改善は、個々の努力ではなく組織全体の仕組みとして構築することが重要です。
5.ハコツールン:ツール入れただけ
最新の製造管理システムやIoT(モノのインターネット)デバイスを導入することは重要ですが、それだけではデータ/AI活用は成功しません。ツールはあくまで手段であり、ビジネスプロセスや組織文化の変革と連動させる必要があります。例えば、BI(ビジネスインテリジェンス)/AIツールを導入したものの、従業員がその使い方を理解せず業務が改善されなければ、ツールの導入効果は限定的です。ツール導入後の運用や活用方法を明確にすることが求められます。
6.ポックループン:PoCばっかり
製造業では、新技術のPoC(概念実証)に多くのリソースが投入されることがあります。しかし、PoCに固執し実際の業務への展開が進まない状況もデータ/AI活用の大きな障害です。例えば、スマートファクトリーのPoCプロジェクトが複数立ち上がっても、それらが生産現場での課題解決に結び付かない場合、プロジェクトは停滞します。PoCは重要なステップですが、それをビジネス価値に結び付ける具体的なアクションが欠けていると成果は上がりにくくなります。
7.データゴーレム:目的のないデータ基盤整備
製造業では大量のセンサーデータや生産データが生成されますが、これらを有効に活用できていないケースが多くあります。データ基盤の整備はデータ/AI活用の基礎ですが、目的や活用方法が明確でないまま進めると無駄なリソースの投入となります。例えば、設備稼働データを収集、保存するだけで、そのデータが具体的なビジネス課題(例:機械の故障予知や生産ラインの最適化)に活用されなければ、データ基盤の整備は意味を持ちません。データの収集と分析は具体的なビジネス課題の解決に直結させる必要があります。
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