その業務はなぜ大変? 実際に働いて開発した業務改善ソリューション:スマートリテール(1/2 ページ)
Preferred Networksはスーパーマーケットなどチェーンストア向けの業務改善ソリューション「MiseMise(ミセミセ)」を開発し、提供を開始した。
Preferred Networks(PFN)は2024年10月9日、スーパーマーケットなどチェーンストア向けの業務改善ソリューション「MiseMise(ミセミセ)」を開発し、提供を開始したと発表した。
チェーンストアには、品出しや値引きシールの貼付、棚割(陳列のレイアウトなどを決めること)、欠品の点検などさまざまな業務がある。これらは、販売機会の損失となる売り場の欠品や品ぞろえ不足を防ぐためにも重要な業務だが、いずれも工夫やノウハウが必要で、経験の浅いパートやアルバイトが熟練者のように作業するのは難しい。
ミセミセは、経験の浅い店員でも熟練者のように効率よく業務を行えるようにし、人手不足や物流の2024年問題に伴う納品回数の減少への対応を支援する。売り上げの向上にもつなげる。売上高の目標は初年度に10億円、3年後に100億円とした。
PFNは5年以上にわたってリテール事業に取り組んでいる。小売りは生活の中で必要不可欠であり、市場規模も大きい。また、人のオペレーションの最適化は進んでいるが、ITやAI(人工知能)による伸びしろも多いと期待を寄せる。
「幅広い品ぞろえで棚が埋まっている」の裏側にあること
複数の店舗を本社が束ねるチェーンストアでは、本社が品ぞろえを決める。棚のどこに商品を置くか、販売価格をいくらにするかを本社が設定し、各店舗がそれに従って売り場をつくる。各店舗はその売り場で商品を切らさないよう、発注/入荷/品出しを繰り返す。チェーンストアのオペレーションはうまく回れば効率的でスケールメリットを追求できる。
こうした理想のオペレーションに対して、本社と店舗に隔たりがあるのが現状だとPFNは見ている。本社が品ぞろえや棚割を決定しても、店舗が入居する建物のサイズやレイアウトはさまざまだ。米国のように、同じ建物で同じ棚のレイアウトで複数店舗を構えることは難しい。それぞれの店舗で不動産の制約に合わせた店づくりが求められる。
また、品ぞろえを増やす裏側では、人手不足もあって「いくつ仕入れて、いつ品出しするか」という1つ1つの商品に対する現場の目配りが甘くなりやすく、品切れにつながりかねない。品切れは販売機会の損失になるだけでなく、自動発注の計算にも影響する。品切れで売り上げが落ちると、その売り上げが発注のベースとなり、在庫が先細りする懸念がある。また、品ぞろえを増やすことでバイヤーから店舗に伝えたい情報も増加し、店舗が受け取る情報をコントロールしきれないなどの状況もコミュニケーションの隔たりにつながる。
膨大な商品点数を取り扱うため店舗の全体像を把握してデータを集めること自体に手間がかかるため、一人一人の店員の働きや在庫など店舗のデータを本社にフィードバックするのが難しく、本社から見て店舗がブラックボックスになってしまっているという。
大手の小売り企業であればミセミセのような業務支援ツールを自前で開発することもできる。ただ、現場の実態や実際の業務の進め方に寄り添わずに開発すれば、使い勝手が悪く成果につながらない投資になりかねない。
目的に合わせたデータ収集を
小売りの現場でもさまざまなデータ活用が試みられているものの、「取りあえず手元にあるデータを活用するは難しい。別の目的で集めたデータは、やりたいことに適していない場合がある。例えばPOSデータは販売実績に関する情報であり、そこから受発注を解析することはできても、店員の品出し業務で起きていることは分からない。何を改善しようとしているのか、そのためにどんなデータが必要なのかを見極めることが重要だ」(PFN リテール担当VPの海野裕也氏)
PFNはミセミセの開発に当たって、店員にインタビューするだけでなく、半年にわたって実際にスーパーで働きながら、店員がどんな情報に基づいて意思決定し、業務を行うのかを把握しようとした。開発に着手する前に、スーパーでの仕事の観察に時間を割いた。ストップウォッチで何にどれだけの時間がかかるかを地道に計測した上で開発を進めた。
「われわれが店舗に行ってもほとんど役に立たなかった。品出しをしようにも、目的の商品が全然見つけられず、30分かけて1箱も見つけられないということもあった。そこで、店内の在庫置き場であるバックルームのデータ化がカギだと気付いた。インタビューでは品出しに困っていることはないと聞いていたが、実際は自身のカテゴリーをよく知る担当者でなければ商品を探し出すのに時間がかかることもよく発生していると分かった。店舗で働いて気付いた課題は、オフィスに再現したバックルームでも検証し、業務効率を改善できる手応えを得たプロダクトを現場に持ち込んだ。その結果、プロダクトは好評で現場でもすぐに使ってもらうことができた」(海野氏)
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