日本はいつから“割安な国”に? GDPを購買力平価で眺めてみる:小川製作所のスキマ時間にながめる経済データ(27)(3/4 ページ)
ビジネスを進める上で、日本経済の立ち位置を知ることはとても大切です。本連載では「スキマ時間に読める経済データ」をテーマに、役立つ情報を皆さんと共有していきます。今回はGDPを「購買力平価」という観点から解説します。
購買力平価と物価比率
購買力平価とはどういったものかをより直感的に理解できるよう、日本の1人当たりGDPを例に見てみましょう。
図5が日本の1人当たりGDPについて、為替レート換算値(赤)と購買力平価換算値(青)を重ね合わせたグラフです。薄緑の棒グラフは両者の比率を表しています。
1986年から2013年ごろまでは為替レート換算値の方が高い水準に達していたと分かります。両者の比率で見れば、1995年に為替レート換算値は購買力平価換算値の1.85倍にも達していたことになります。逆に、2023年は為替レート換算値が購買力平価換算値を大きく下回っており、比率は0.67です。
それぞれのドル換算値は次のように計算されます。
- 為替レート換算値=自国通貨の数値÷為替レート
- 購買力平価換算値=自国通貨の数値÷購買力平価
ドル換算値の違いは、為替レートと購買力平価の逆数の違いとなっていることが数式から分かりますね。具体的に、それぞれの換算レートがどのように変化してきたのかをグラフでも見てみましょう。
図6が円とドルの換算レートについて、為替レート(赤)と購買力平価(青)を重ね合わせたグラフです。薄緑色が両者の比率となる物価比率です。
物価比率は、「Price Level Ratio」を日本語訳した指標です。日本の統計データでは、価格水準指数などとも呼ばれていますが、ここでは物価比率と呼称します。
まず、図5の購買力平価換算値に対する為替レート換算値の比率(薄緑)と、図6の為替レートに対する購買力平価の比率である物価比率(薄緑)が全く同じものであることが確認できますね。
その上で、為替レートと購買力平価の傾向を見てみましょう。上に行くほど円高、下に行くほど円安として見てください。
為替レートは1ドル360円の固定相場制から移行し、1985年のプラザ合意を機に急激に円高傾向が進みました。その後アップダウンを繰り返しながら、おおむね80〜150円/ドルの範囲で推移しています。
一方で購買力平価は緩やかな推移ながら、徐々に円高方向に推移していて、両者の乖離(かいり)具合が一見収束していくようにも見えます。
2022年、2023年は一転して急激な円安が進み、両者の乖離がそれまでとは反対側に大きくなっていることが確認できますね。両者の比率である物価比率も、2021年には0.9程度だったのが、2023年には0.67と急低下しています。
為替レート換算値と購買力平価換算値の違いには、この物価比率という指標が関係していることになります。そして、物価比率とは、米国に対する物価水準の比率に他なりません。つまり、米国に対してその時々の各国の物価が割高か、割安かを示しています。
もう少し為替レート、購買力平価、物価比率の関係を整理してみましょう。物価比率は「購買力平価÷為替レート」としてあらわすことができるものでした。このことから次の関係式が導けます。
- 購買力平価=物価比率×為替レート
また、購買力平価換算値は「自国通貨の数値÷購買力平価」で表せると説明しました。これらの式を合わせて考えると「購買力平価換算値=自国通貨の数値÷為替レート÷物価比率」という式が導出されます。さらにこれを整理すると次のようになります。
- 購買力平価換算値=為替レート換算値÷物価比率
上式からは、購買力平価換算値とは為替レートでドル換算し、さらに物価比率で物価の調整をしたものとして捉えられることが分かるでしょう。
これが、購買力平価は通貨コンバータであり、空間的価格デフレータであることの数式的な意味となります。つまり、為替レートによって通貨単位を換算(コンバート)し、物価比率によって物価水準を米国に合わせる(空間的な実質化)、という計算をしているわけです。
「購買力平価とは何か」が少し分かった気がしませんか?
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