生産現場が注目する「生成AI×オンプレ」の未来 何が導入障壁になり得るか:製造業×生成AI インタビュー(3/3 ページ)
現在、生産現場における生成AI活用では、オンプレミス環境下でのAIモデル運用に注目が集まっている。ただ、クラウド経由で生成AIサービスを利用する場合と異なり、オンプレミス環境ではさまざまな制約条件がある。これらを乗り越え、どのように実装を進めていくべきか。エムニの下野祐太氏に話を聞いた。
暗黙知を抽出し、全社で共有する未来も
下野氏は生成AIが製造業において、単なる業務効率化以上の価値創出の役割を果たし得ると指摘する。例えば、製造業では現在、設備で異常が発生した際、その情報を入力すると解決策を提示するチャットbotの構築に注目が集まっている。経験の浅い新人技術者を効率的にサポートすることが期待されている。ただ、これを実現するには熟練工の暗黙知やノウハウを形式知化してデータベース化するプロセスが必要だ。
そこで同社はChatGPTを使うことで、熟練工による暗黙知の言語化を支援するツールを試験的に開発した。熟練工に対してChatGPTが深掘りをする質問を繰り返していくことで、暗黙知を誰もが参照しやすい整理された言葉で表現し、データベースに反映していく。「各個人が持っていた暗黙知を工場全体、あるいは全国の工場でまとめることができれば、今まで言語化されていなかったノウハウを全体で共有できるようになる。技術者全体の“当たり前”のレベルを一段上げられるかもしれない」(下野氏)。
もう1つの例が知財調査業務における生成AI活用だ。製品開発に付帯する知財調査では、これまで外部の専門家や自社法務部と相談しつつ進めることが多かった。この場合、期間は数日から1カ月程度かかる上、費用も数万円、大規模なものだと数百万円かかる。追加調査を依頼すると、当然その分コストもかさむ。
こうした状況を生成AIで変革できる可能性がある。下野氏は「まだ検証段階だが、生成AIを使えば時間は数秒から数時間程度に短縮でき、費用は数十円、数百円程度に減らせる可能性がある」と説明する。検索条件を少し変えた上での追加調査もしやすくなり、モノづくりのアイデア出しにおける新しい手法にもなり得る。
このように生成AIを活用していく上で、課題になるのが人材育成だ。生成AI活用に対する現場人材の抵抗感を減らす施策を展開する必要がある。まずは講習などを通じて生成AIを実際に利用してもらい、業務での活用イメージを持ってもらう。エムニでも実際に演習などを展開している。「言葉で言うほどうまくいかないのが現実」(下野氏)であるが、この取り組み自体が必須であることは確かだろう。
「大規模な業務プロセス改革をせずとも、ソフトウェアの導入だけで、日本が培ってきたモノづくりのノウハウやデータを、個々人から全体へと共有していける。生成AIは単なる業務効率化だけでなく、根本的に日本のモノづくり現場を変革していくポテンシャルがある」(下野氏)
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