Siパワー半導体でSiCと同等レベルの低損失を実現、シャープのFCR回路技術:組み込み開発ニュース
シャープは、技術展示イベント「SHARP Tech-Day'24」において、Siパワー半導体を用いて次世代に位置付けられるSiCパワー半導体と同等レベルの低損失を実現できるFCR回路技術に関する参考展示を行った。
シャープは、技術展示イベント「SHARP Tech-Day'24」(2024年9月17〜18日、東京国際フォーラム)において、Si(シリコン)パワー半導体を用いて次世代に位置付けられるSiC(炭化シリコン)パワー半導体と同等レベルの低損失を実現できるFCR(Fast Commutation Rectifier)回路技術に関する参考展示を行った。数年以内に個別部品を用いたインバーター回路を家電向けに開発した後、モジュール化やチップレベルの集積による小型化を進めていく方針である。
シャープのFCR回路技術を採用したインバーター回路。左から、現在開発中の個別部品を用いた回路基板、1パッケージに集積したパワーモジュール、チップレベルで集積したトランジスタの順番に並んでいる[クリックで拡大]
Siパワー半導体のスイッチング動作時における損失は、寄生ダイオードに起因して流れる逆回復電流によるところが大きい。FCR回路技術では、Siパワー半導体に対して低耐圧ながら高速電流を流せるSiパワー半導体を直列に配置し、キャパシターを使って同期動作させることで、スイッチング動作を行うSiパワー半導体に流れる逆回復電流を抑制する。FCR回路にすることで、従来のSiパワー半導体単体と比べてスイッチング損失は4分の1に、三相インバーター回路に適用する場合には電源全体の損失を2分1に低減できるという。
耐圧600V/定格電流40Aのデバイスで比較すると、従来のSiパワー半導体単体は単価が400円、スイッチング性能係数が0.05であるのに対し、SiCパワー半導体はスイッチング性能係数が0.25と大幅に上回るものの、単価も1200円と大幅に高くなってしまう。これに対してFCR回路技術は、単価は500円とSiパワー半導体単体とほぼ同程度であるとともに、スイッチング性能係数は0.20〜0.25とSiCパワー半導体並みに高められる。
FCR回路技術を適用するSiパワー半導体としてはSi-MOSFETを想定しており、白物家電などで一般的な耐圧1000V以下のインバーターやDC-DCコンバーター向けを想定している。SiCやGaN(窒化ガリウム)などの次世代パワー半導体の世界市場規模は、2035年に3.5兆円となり、Siパワー半導体の4.3兆円に肩を並べることが想定されているが、低コストで省電力を実現できるFCR回路技術により、次世代パワー半導体の市場を獲得して行きたい考えだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- インフィニオンのSiC-MOSFETは第2世代へ、質も量も圧倒
インフィニオンが第2世代のSiC-MOSFET製品の特徴や製品ラインアップについて説明。前世代と比べて5〜20%の損失削減が可能であり、競合他社の製品との比較でも圧倒的な優位性を発揮するという。製品ラインアップの拡充も図り、マレーシアのクリム工場への大規模投資などにより量産規模も拡大していく方針である。 - SiCデバイスを垂直統合で手掛けるSTマイクロ、GaNデバイスの準備も着々
STマイクロエレクトロニクスは、「オートモーティブワールド2024」において、SiCデバイスの原材料からウエハー、モジュール、冷却系までを含めたシステムに至るまで垂直統合で手掛ける同社のソリューションを一堂に披露した。 - 三菱電機がxEV用パワー半導体モジュールの新製品、SiC-MOSFET前提に設計刷新
三菱電機がEVやPHEVなどxEVのモーター駆動に用いるパワー半導体モジュールの新製品「J3シリーズ」について説明。同社の車載パワー半導体モジュールの量産品として初めてSiC-MOSFETを搭載しており、従来品と比べてモジュールサイズを60%削減するなどモーターを駆動するインバーターの小型化に大きく貢献できる。 - 日本TIが効率99%超のGaNベースIPMを発表、白物家電のモーター制御に最適
日本テキサス・インスツルメンツ(日本TI)は、エアコンや冷蔵庫などの白物家電に用いられる出力150〜250Wのモーターアプリケーション向けに、99%超の効率を実現するGaNデバイスを用いたIPM(インテリジェントパワーモジュール)「DRV7308」を発表した。 - 日立パワーデバイスを買収するミネベアミツミ、半導体売上高2000億円を早期実現へ
ミネベアミツミと日立は、ミネベアミツミが日立のパワー半導体子会社である日立パワーデバイスの全株式と日立グループのパワーデバイス事業に関する海外販売事業を譲受する契約を締結したと発表した。 - ルネサスがSiCデバイスを量産「EV向けパワー半導体のシェアを大きく伸ばす」
ルネサス エレクトロニクスは、高崎工場に次世代パワー半導体として知られるSiCデバイスの生産ラインを導入し2025年から稼働を始める計画だ。