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豊富なエンジニア体制と「ハミダス」精神、ニチレイフーズの進化の秘訣とはものづくりDXのプロが聞く(2/3 ページ)

Koto Online編集長の田口紀成氏が、製造業DXの最前線を各企業にインタビューする「ものづくりDXのプロが聞く」。今回は、ニチレイフーズのエンジニア組織や開発体制、スマートファクトリー構想などについて伺いました。

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三層のスマートファクトリー構想 新工場ではチャーハンの焦げをロボットが除去

田口 先ほど少しお話にでた福岡県の新工場は、「スマートファクトリー」というコンセプトを掲げていると伺っています。具体的な工場の中身について、教えてください。

塚本 私たちニチレイフーズの考えるスマートファクトリーは、3つの層からなりたっています。

 最初の層としてあるのが製造現場です。その製造現場から吸い上げたいろいろなデータが、2つ目の層である製造管理・コックピットに集約されていきます。そして、3つ目の層となる間接部門が、そのデータを使って、生産や人員、原料調達といった計画を作るイメージです。

 データの取得、生産管理、現場へのサポートといったように、この3つの層がぐるぐると回って、省人化や省力化、食品廃棄の削減などを実現していくのが1つの理想の形ですね。


「データの取得、生産管理、現場へのサポートといったように、この3つの層がぐるぐると回って、省人化や省力化、食品廃棄の削減などを実現していくのが1つの理想の形ですね」(ニチレイフーズ 塚本氏)[クリックで拡大]出所:Koto Online

 この構想全体としてはまだ道半ばなのですが、例えば生産支援システムやAIやロボティクスの導入などは一部先行して始めています。

田口 具体的に、実用化が始まっている例としては、どのようなものがあるのでしょうか。

塚本 福岡の新工場では、例えばカメラ映像からAIが検知して、チャーハンの焦げをロボットで取り除くという技術が導入されています。

 これは、もともと鶏肉の下処理で開発した技術を応用しているんです。原材料となる鶏肉には、血合いや打ち身などがあります。食べても問題はないのですが、お客さまから加熱できていないのではと心配する声をいただくことがあるため、できる限り取り除いています。

 以前は全て人手でやっていたのですが、その作業を「目で見る・取り除く箇所を判断する・包丁で切る」という形に3分割して、それぞれの要素を自動化できる装置を開発しました。

 見るところにカメラ、判断するところにAI、取り除くところにロボットを使って、およそ半分の省力化、作業負担の軽減につながっています。また、ロボットが取り除くことで、無駄な部分を切り取ることがなくなり、この部分のフードロスも約7割削減することができました。鶏肉で実現したこの技術を横展開して、新しい工場ではチャーハンの焦げ取りに応用しています。


「ロボットが取り除くことで、無駄な部分を切り取ることがなくなり、この部分のフードロスも約7割削減することができました」(ニチレイフーズ 塚本氏)[クリックで拡大]出所:Koto Online

田口 実際の開発には、どれくらいの期間がかかっているのでしょうか。

塚本 提案から実際に導入されるまで、大体3、4年かかっています。開発そのものももちろん時間が必要ですが、説明して社内の理解を得るというところもいろいろと苦労をしましたね。

 まだイメージの段階のときに、こういうものを作りたいと社内でプレゼンテーションしたのですが、最初は「そんなこと、本当にできるのか」といわれるところからスタートするんです。

 例えばかつて開発した、ブラックライトを鶏肉の皮目に当てて、羽が残っているところだけ光って見えるという技術があるのですが、これの応用で鶏肉をカメラ撮影して、除去したい部分を光らせて検知できますというように、開発できたところを毎年少しずつ説明していきました。

 そして、最初のプレゼンテーションから3年ぐらいたったころに、実際にロボットが動いて除去できます、ここまで開発できましたという段階にきて、それでは実際に工場に入れてみよう、となるんです。

チャレンジできる環境の背景に、行動指針「ハミダス」

田口 「そんなこと本当にできるのか」という段階で、そのための予算が取れて、開発する環境があるというのがすごいですね。全てのものにフラットに予算をつけるわけにはいかないでしょうから、何らかの判断がそこにあるのだと思いますが、最初の段階で、そこを乗り越えることができるのはなぜなのでしょうか。

塚本 これまでの実績というのはもちろんあると思います。結果を出して成果を積み上げていると社内で評価されているというのが一つあるのかもしれません。

 また、会社として、常に新しい課題解決に取り組んでいくという風土もあります。社内はもちろん、社会的な課題は常にあるので、ものづくりをする上で、最先端の技術を取り入れながら、その解決を目指す必要があります。そのため、私たちの部署としても「こんな課題解決をやります」という案を複数提案するようにしています。

 その中には成功するものもあれば当然失敗するものもありますが、そもそもやらなくていいと言われない、解決が必要とされるものを提案することが必要です。そして失敗も含めながらですが、一定の成果を出し続ける中で、やらせてもらえる環境になっているのかなと思います。あまりに先走りすぎて、「今やることはそれですか」と怒られることもたまにありますけどね(笑)。


「ある意味チャレンジだと思うのですが、そうしたチャレンジを許容する文化というか、社内の風土みたいなものがあるのでしょうか」(CCT 田口氏)[クリックで拡大]出所:Koto Online

田口 ある意味チャレンジだと思うのですが、そうしたチャレンジを許容する文化というか、社内の風土みたいなものがあるのでしょうか。

塚本 2011年に、当時の社長が打ち出した「ハミダス」という行動指針があります。「はみ出す」という日本語をもじって片仮名にしたもので、もともとは組織改革の1つとして、部署を超えていろいろな仕事に取り組もうというものでした。

 その理念が社内に浸透して、今では環境保全の取り組みなど、いろいろなところに広がって、みんながハミダス精神に基づいて自主的な活動をしています。

 例えば、新しい取り組みをするときに上司を通さず他部署に声掛けをするといろいろとハレーションが起きるという他社の事例を耳にすることがあるのですが、当社では上記の風土もあり、気にする人が少なく、他部署との連携もしやすい組織だと思います。


「ハミダスという理念が社内に浸透して、今では環境保全の取り組みなど、いろいろなところに広がって、みんながハミダス精神に基づいて自主的な活動をしています」(ニチレイフーズ 塚本氏)[クリックで拡大]出所:Koto Online

 この「ハミダス」という行動指針が、新しいものにチャレンジしやすい環境につながっているのかもしれないですね。

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