GDPの「実質値」と「名目値」とは何なのか?:小川製作所のスキマ時間にながめる経済データ(26)(2/3 ページ)
ビジネスを進める上で、日本経済の立ち位置を知ることはとても大切です。本連載では「スキマ時間に読める経済データ」をテーマに、役立つ情報を皆さんと共有していきます。今回はGDPの「実質値」と「名目値」について、データとともに解説します。
日本のGDPの名目値と実質値を見てみよう
続いて、実際の日本のGDPについて、名目値と実質値、GDPデフレータの関係を見ていきましょう。
図2が日本のGDPについて、名目値(青の折れ線、左軸)、実質値(赤の折れ線、左軸)、デフレータ(緑の棒グラフ、右軸)をまとめたものです。名目値と実質値が、物価指数とどのような関係にあるかを読み取りやすくまとめてみました。
日本のGDP名目値(青)は1997年をピークにして横ばい傾向が続いてきました。リーマンショックでいったん大きく低下し、2010年以降上昇傾向が続きましたが、コロナ禍でまた下落して、2021年から上昇という推移です。アップダウンを繰り返しながら、全体としては500兆〜550兆円あたりで停滞傾向が続いてきました。2023年で大きく上昇しており、今後の推移が気になるところです。
一方で、GDP実質値(赤)は多少のアップダウンがありつつも、全体としては上昇傾向にあります。日本は長年、名目値(金額)は停滞、実質値(数量)では緩やかに成長する状況が続いてきたということです。
2023年は名目値の上昇は大きかったのですが、実質値はそれに比べてかなり緩やかな成長となっています。
次に、物価との関係を見てみましょう。まず、基準年の2015年で、GDPデフレータは100となりますが、名目値と実質値の一致が確認できます。これは、実質値を理解する上で非常に重要な観点になります。
そして、各年の名目値と実質値の関係は、物価指数が基準年の値から離れている程度と一致することが確認できます。
例えば、2023年のGDP名目値は591.9兆円で、GDP実質値は558.9兆円です。この比率を計算すると、「591.9÷558.9=1.059」となります。これは、GDPデフレータの2015年に対する比率(105.9÷100=1.059)と一致します。
2022年は2015年よりも2%程物価が上昇していますので、その分名目値よりも実質値の方が低く出ているということです。金額的には成長しているけれども、物価の変動を加味すると、実質的(数量的)な成長はその分目減りするということですね。
先に紹介した実質値の計算を、数値的にも確認できたことになります。
- 実質値=名目値÷物価指数
1997年の数値も確認してみましょう。日本の1997年は国内経済の転換点にもなった年です。当時のGDP名目値は543.5兆円で、GDP実質値は477.2兆円です。両者の比率は1.139で、やはりGDPデフレータの比率(113.9÷100=1.139)と一致します。
当時の物価は2015年よりも高かったことになります。2015年から見て金額的には同程度だったとしても、物価が高かった分だけ数量的には少ない水準だったという解釈となります。日本は過去の方が物価水準が高かったという特殊な事情があるため、このようなややこしい関係が生まれているのです。
米とドイツのGDPは?
日本が名目値と実質値の関係において特殊な状況にあったのは、他国の傾向と比較するとより明確になると思います。ここでは、米国とドイツの同様の推移を見て可視化してみましょう。
図3が米国のGDP名目値(青)、GDP実質値(赤)、GDPデフレータ(緑)です。ぜひ、図2の日本のグラフと見比べてみてください。
まず日本と比べると、各項目とも右肩上がりでスムーズに推移していると分かります。GDPデフレータも上昇し続けていて、物価上昇が継続する緩やかなインフレーションにあったことが分かります。基準年である2015年以降は、物価上昇分だけ実質値が名目値より目減りしている状況です。
一方で、2015年より前では名目値よりも実質値の方が高くなっています。これは実質値よりも名目値の方が高かった日本の傾向とは逆になります。物価が継続して上昇していますので、過去にさかのぼるほど物価が低く、基準年から見れば数量的な経済規模が名目値よりも大きかったことになるわけです。
図4がドイツのグラフです。やはり米国と同様の傾向が確認できますね。2015年以降は名目値より実質値の方が低く、物価上昇による実質成長が低くなります。
特にドイツの場合は2022年、2023年の物価上昇率が高く、2023年の実質成長率はマイナスとなっています。
米国やドイツでは物価上昇が続き、基準年よりも前では名目値よりも実質値の方が高かったことになり、この点は日本と異なります。この傾向は米国やドイツに限ったことではなく、ほとんどの先進国で見られます。日本が例外的で、名目で停滞しているけれど、実質で成長しているという状況だったわけです。
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