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GDPの「実質値」と「名目値」とは何なのか?小川製作所のスキマ時間にながめる経済データ(26)(1/3 ページ)

ビジネスを進める上で、日本経済の立ち位置を知ることはとても大切です。本連載では「スキマ時間に読める経済データ」をテーマに、役立つ情報を皆さんと共有していきます。今回はGDPの「実質値」と「名目値」について、データとともに解説します。

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 今回は、経済指標でよく耳にする「実質値」についてご紹介していきます。参照するのは、国民経済計算です。

 皆さんも経済に関するニュースで、GDPの実質成長率〇〇%などと耳にしたことも多いのではないでしょうか。経済指標が難しく感じるのは、この時折耳にする「実質」という考え方が理解しにくいというのも大きいように思います。

 例えば日本のGDPは「名目」で見れば長期間停滞が続いてきましたが、「実質」では緩やかな成長が継続しています。これがなぜなのか、どういった意味なのか、疑問に思っている方も多いのではないでしょうか。

 今回は統計データを可視化しながら、感覚的/視覚的に実質値を理解していきましょう。通常、経済データの統計値は、集計した金額そのままの数値が公表されます。このような、生の数値は名目値と呼ばれます。

 名目値を物価×数量として考えてみると、名目値が増加した場合、それが物価の上昇なのか、数量の増加なのかが分かりません。単に物価が上昇しただけで、生産や消費する数量が増えていないのであれば、私たちの生活が「実質的に」豊かになっているとはいえませんね。

 経済では、このような数量的な豊かさがどう変化したのかに注目します。数量的な変化を知るために、名目値から物価が変動した分を除いたものが実質値となります。

 つまり、実質値とは次のように計算されます。

  • 実質値=名目値÷物価指数

「物価指数」とは?

 ここで重要になるのが、物価指数という指標です。物価指数は個別のモノやサービスの価格を統合し、全体的な物価を表現した指標です。

 良く知られている消費者物価指数は、私たちが消費するモノやサービスの構成比に沿って、個別の価格を重み付けしながら統合した指数です。食品や飲料や被服、医療費、教育費、光熱費など私たちの身近なモノやサービスの価格を、消費の構成比率に応じて統合したものと理解できます。

 もう1つのGDPデフレータも、GDPの構成比になるように重み付けしながら、構成項目の価格を統合したものと理解すると良いでしょう。

 これらの物価に関する指標は、物価指数と呼ばれていて、個別のモノやサービスの価格ではなく、全体的な価格の総合値となります。さらに、絶対的な数値として表されているわけではなく、時系列的なある年を基準とした指数として表現されます。

 基準年(例えば2000年)での物価指数を100とします。その翌年に全体的に5%物価が上昇すれば、その年の物価指数は105となります。さらにその翌年に5%の物価上昇があれば、その年の物価指数は110.25(1.05×1.05×100)となります。

 基準年に対する時系列的な指数として表現されるというのが、理解をさらにややこしいものにしている原因かもしれません。具体的にGDPデフレータについて時系列データを見てみましょう。

図1:日本のデフレータ推移
図1:日本のデフレータ推移[クリックして拡大] 出所:OECD.Statより筆者にて作成

 図1が日本の最新のデフレータ(物価指数)の推移です。グラフの読み方から解説していきましょう。このグラフでは、GDPの総合の物価指数であるGDPデフレータ(黒)と、その支出側の構成項目である最終消費支出デフレータ(青)、総資本形成デフレータ(赤)の推移を表しています。

 最終消費支出はさらに、食料/飲料や、医療費、教育費など私たちの生活で身近な支出項目から構成されています。総資本形成は、機械/設備や公共投資などから構成されています。

 これらの構成項目でそれぞれ物価指数が計算され、それらをさらにGDPの構成比に合わせて統合したのがGDPデフレータということになります。

 このグラフでは、基準年を2015年としています。これは、それぞれの構成項目の数値が2015年を100とした指数であることを表しています。2015年(縦の破線)で、全ての項目が100となっていることから確認できますね。

 傾向を見てみると、1990年代後半から低下が続き、2013年を底にして、2014年以降徐々に上昇傾向になっていると分かります。2022年、2023年は特に上昇傾向が強いですね。近年の物価上昇ぶりがグラフからも読み取れます。

 1つの項目だけ特定の動きをしているわけではなく、各項目がある程度連動して推移している事も読み取れます。

 日本では1990年代から継続して全体の物価が下落するデフレーション(デフレ)が生じていましたが、2014年以降は少しずつ上昇傾向にあります。ただし、全体としては1990年代の水準を超えていない状態のようです。

 このデフレが続いてきたことが近年の日本経済の特徴で、名目値と実質値の関係性を分かりにくくさせている要因とも言えます。

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