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溶接部の疲労強度(その2)CAEを正しく使い疲労強度計算と有機的につなげる(11)(2/6 ページ)

金属疲労を起こした際にかかる対策コストは膨大なものになる。連載「CAEを正しく使い疲労強度計算と有機的につなげる」では、CAEを正しく使いこなし、その解析結果から疲労破壊の有無を予測するアプローチを解説する。連載第11回は、前回に引き続き「溶接部の疲労強度」について取り上げる。

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荷重方向が変化するときの応力レンジの計算方法

 最大荷重時と最小荷重時の荷重の方向が正反対にならない例として、図6に示すようなZ方向荷重が重力プラス変動荷重の場合があります。Z方向荷重について述べると、最大荷重は自重と変動荷重成分の和、最小荷重は自重と垂直荷重成分の差となります。そして、X方向荷重について述べると、最大荷重はプラスの変動荷重成分、最小荷重はマイナスの変動荷重成分です。この結果、最大荷重時と最小荷重時で合成荷重(赤色ベクトル)は図示したように反転しません。そして、前述したように最大荷重時の主応力と最小荷重時の主応力の引き算はできません。

最大荷重時と最小荷重時の荷重の方向が正反対にならない例
図6 最大荷重時と最小荷重時の荷重の方向が正反対にならない例[クリックで拡大]

 このような場合、応力レンジはどのようにして求めればよいでしょうか。文献は見当たらないので自分で考えることにしました。提案として、以下のものが考えられます。

  • (1)図4に示した座標軸に垂直方向の6つの応力成分σx、σy、σz、τxy、τyz、τzxは引き算ができる。つまり、最大荷重による6つの応力成分σx1、σy1、σz1、τxy1、τyz1、τzx1と最小荷重による6つの応力成分σx2、σy2、σz2、τxy2、τyz2、τzx2との差は有効である
  • (2)これらの差に基づく6つの応力成分(σx1−σx2、σy1−σy2、σz1−σz2、τxy1−τxy2、τyz1−τyz2、τzx1−τzx2)から求めた第一主応力を応力レンジとして使えないだろうか
  • (3)主応力は次式で求める
式9
        式9
式10
式10
式11
式11
式12
式12

 上記の提案が有効かを調べましょう。少し骨が折れますが、図7に示すような最大荷重と最小荷重の方向が異なる例を計算してみましょう。

最大荷重と最小荷重の方向が異なる(例)
図7 最大荷重と最小荷重の方向が異なる(例)[クリックで拡大]

 最大荷重時の解析結果を図8に示します。

最大荷重時の解析結果
図8 最大荷重時の解析結果[クリックで拡大]

 図9に示す応力評価点の応力値をテキストファイル形式で出力して「Excel」に取り込みました。これを表1に示します。これから3次方程式を解くマクロプログラムを作成し、主応力を求めました。その結果を表2に示します。

応力評価点
図9 応力評価点[クリックで拡大]
応力評価点の応力値
表1 応力評価点の応力値[クリックで拡大]
応力差から求めた主応力
表2 応力差から求めた主応力

 応力レンジは31.39[MPa]となりました。

 少し乱暴な応力レンジの計算をしてみましょう。「主応力の引き算はダメ」と説明しましたが、最大荷重時のσ1と最小荷重時のσ3の差を計算してみます。その結果、32.25[MPa]となり、前述した31.39[MPa]に近い値となりました。甚だ乱暴な発想ですが、表2のσ1は良い線いっているように思えます。

 以上の作業はかなり面倒なものでした。そして、この方法では着眼した1節点の応力レンジしか求まりませんので、応力レンジの分布、つまりコンター図が描けません。いい方法はないでしょうか。筆者が会社勤めをしていた当時、「荷重ベクトルの差を荷重として解析すると、その結果が応力レンジなるのでは?」との提案を受けたことがあります。図10の黄色のベクトルが荷重ベクトルの差です。図に示すように、荷重ベクトル差であるベクトル(黄色)は、(赤色)や(橙色)とはあさっての方向を向いているので、あさっての方向を向く荷重ベクトルに何の意味があるのかと思い、この提案を却下したことがあります。

荷重ベクトルの引き算
図10 荷重ベクトルの引き算[クリックで拡大]

 しかし、このとき一応は計算しておこうかと思い、2次元平面応力状態で下記の計算をしました。図11に、最大荷重時と最小荷重時の荷重と応力を示します。最大荷重と最小荷重が交互に作用したときの応力レンジを求めましょう。Fx1、Fy1、Fx2、Fy2は垂直荷重、S1、S2はせん断荷重です。

立方体に作用した2つの荷重条件
図11 立方体に作用した2つの荷重条件[クリックで拡大]

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