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設計者CAEの取り組みで“再定義”すべき3つの項目設計者CAE教育のリデザイン(再設計)(5)(2/3 ページ)

連載「設計者CAE教育のリデザイン(再設計)」では、“設計者CAEの教育”に焦点を当て、40年以上CAEに携わってきた筆者の経験に基づく考え方や意見を述べるとともに、改善につながる道筋を提案する。最終回となる連載第5回では「設計者CAEの取り組みで“再定義”すべき3つの項目」について取り上げる。

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2.CAE専任者の再定義

 CAEツールの導入のためには、CAEに知見を持つ人材が関わることになります。

 その人たちがほぼ自動的にCAE専任者という役割を担うことになります。そして、会社からCAEの活用を広めることを指示されます。以下は筆者が見てきたCAE専任者の傾向です。あくまで一般論です。解析技術を高めるためには、これからもCAE専任者は必要不可欠です。

  • CAEツールの使い方に詳しい
  • その半面、解析対象の製品知識が不十分
  • 解析精度に固執しがち
  • 他部署との交流がほとんどない
  • 学者肌

 CAEの活用を計画するのは彼らです。計画の視点が、設計ではなく“CAE寄り”になります。例えば、CAE教育の計画目標を以下のように考えがちです。

  • 第2四半期までに、設計部の60%が線形静解析ができるようになる
  • そして、そのうちの30%は非線形解析ができるようになる

 これはCAE専任者目線の目標でありモノサシです。

 実は筆者自身も約35年間、このような目標を掲げ、CAEツールの操作⇒講習会⇒サポートという王道でCAEの活用を働き掛けてきました。最初の15年ほどは、この方法で何とか回せましたが、ここ20年でこの方法が通用しなくなってきました。CAE専任者目線のモノサシが使えなくなった、というわけです。

 筆者は長い間、CAE専任者として活動してきました。使っていたツールは「MSC Nastran」です。Superelement(部分合成法)やDMAP(Direct Matrix Abstraction. Program/マクロによるマトリクス操作)など、MSC Nastranの高度な機能を使って、複雑な解析を実行することでCAE専任者を名乗っていました。CAEツールが今ほどポピュラーでない時代はそれが許されていました。しかし、よくよく考えてみれば、これは単なるCAEオペレーターです。

 今は、CAEツールの使い方を詳しく知っているだけではCAE専任者とはいえない時代です。設計者から丸投げされた解析を実施するだけであれば、それはオペレーターです。これからのCAE専任者は、CAEオペレーターではなく、CAEコーディネーターでなければなりません(図3)。

CAEコーディネーターとチーム
図3 CAEコーディネーターとチーム[クリックで拡大]

 CAEコーディネーターは、以下のような資質が必要です。

  • CAEツールを、限界を含めて理解している
  • 解析対象となる製品知識がある
  • 設計プロセスを理解している
  • 設計課題を理解している
  • コミュニケーション能力がある

 連載第3回で「カプセルCAE」のような設計のためのCAE活用を提案しましたが、カプセルCAEの設計とディレクションは、CAEコーディネーターの資質がないとできません。CAEの活用をプロセス視点で捉える必要があります。

 CAE専任者は、会社、組織、そして自分のために、自らの役割を再定義すべきです。

 解析そのものについては、AI(人工知能)による「サロゲートCAE」の躍進があります。実験結果をシミュレーションモデルに取り込んで精度向上を計るデータ同化についても議論が盛んです。解析結果の妥当性を担保するためのデータサイエンスなど、CAEコーディネーターとして習得すべきテーマはいくらでもあります。1人で対応できる範囲を超えています。チームとしての役割も視野に入れて、CAE専任者の役割を再定義する必要があります。

 CAE専任者のCAEは、私たちが理解しているCAEで、数値解析のことを指します。しかし、CAEコーディネーターのCAEは意味が違います。「CAE」という概念と言葉を提唱したJack Lemon(ジャック・レモン)氏は、CAEを数値解析だけではなく、もっと広義のものとして解説しています。CAEコーディネーターのCAEは、数値解析のCAEではなく、レモン氏の言うCAEです。本来のCAEについての解説は、以下の豊田中央研究所 小島芳生氏の論文の「1.CAEのあるべき姿とは」を参考にしてください。24年前に書かれたものですが、DX(デジタルトランスフォーメーション)時代の今でも十分に役立つ内容です。古さを感じないそれこそ、CAEが24年もの間、置かれてきた状況を示唆しています。

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